築地から豊洲へ

2018年10月、ようやっと。本当にようやっと、築地市場が豊洲市場に移転した。

私が初めて築地を訪れたのは平成になってからだが、平成になってから築地市場に足を踏み入れた者はみな「築地は再整備か移転が必要だ」と思ったはずだ。

なぜか。

理由は東京都のホームページの「移転整備の経緯」が分かりやすい。

 

東京都「豊洲市場へのあゆみ 移転整備の経緯」
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/project/


築地市場では、多くの施設が耐用年数を超え、狭い場内は混雑するなど、都民の期待や時代の要請に十分応えられないという深刻な課題を抱えています。

 

築地市場は1935年(昭和10年)開場。開場から83年も経てば、環境も変化する。
例えば、東京都の人口は築地開業当時の1935年には約637万人だったが、2018年には1300万人を超えている。

築地は、東京を支える日本最大の市場としては手狭すぎた。

 

老朽化
開場から80年以上が経過している築地市場は、施設の老朽化が進み、建物の一部が破損して落下するなど、安全性に不安を抱えており、これまでの部分的な改修工事による対応では限界があり、一刻も早い移転整備が必要です。

この老朽化問題も大きい。築地の建物のボロさは相当なものだった。「どうみても昭和の遺物」。その上、アスベスト問題すらあった。とても生の食材を扱う建物ではない。

 

【参考】

2017年3月27日「築地、石綿4.7万平方メートル残存 地震で飛散の恐れ」日経新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG26H32_W7A320C1CC1000/

 


施設構造
鉄道輸送時代に建てられた施設のため、大型トラックでの搬入・搬出のスペースが不足している構造であり、スムーズな車両動線の確保が難しい状態です。

 

そう。築地は不思議な施設構造だった。なぜ扇型。なぜカーブ。
初めて築地を訪れたとき、「なんでこんな不思議な形状なのだろう」と不思議に思ったものだが、「昔は鉄道輸送だった」と聞いて納得した。

しかし、1987年(昭和62年)に築地市場国鉄引込線は廃止された。

以降、何ら合理性のない不思議な構造になってしまっていた。

 

過密化、狭あい化
トラックの駐車スペースや荷さばきスペースが大幅に不足しているため、混み合った場内のいたるところで荷の積み降ろしなどが行われるなど、作業が非効率になるとともに、車両等の接触事故も起こりやすくなっています。

 

とにかく動線がカオスなのが築地の特徴だった。行きかうターレーも危険だった。「ヒヤリハット」案件は日常茶飯事。ちょっと築地に滞在しただけで、危ない現場をいくつも目撃した。築地市場内で一体どのくらい事故が起きていたのだろうと思う。

 

品質・衛生管理
開放型の構造で高温・風雨の影響などを受けやすく、温度管理も不十分であり、荷置き場が不足し、商品を一時的に屋外に置かざるを得ないため、商品の品質・鮮度保持の徹底が困難となっています。

 

築地で一番戸惑い、我が目を疑ったのがその衛生環境だった。

「え。生魚をこんな外気にさらしちゃっていいの?」とか「ハエとか虫とか少々たかっても気にしないって昭和の頃はそうかもしれないけど、今どきそれはどうなの?」とか、昭和へのタイムスリップ感がすごかった。

真夏に築地を訪れたことはないが、真夏なら「え。この炎天下に生魚を置いちゃう?」という光景が見られたのだろう。

はっきり言って、「近代的な大企業は、衛生的な問題を避ける観点からも築地を通さないで直接仕入れるだろう」と確信するのが築地市場の状況だった。

 

豊洲市場は、こうした築地の問題を解決している。

 

東京都「施設概要 豊洲市場」

http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/facility/

 

豊洲市場


高度な品質・衛生管理や効率的な物流を実現する首都圏の基幹市場
食の安全・安心を確保します


温度を適切に管理できる閉鎖型施設になることで、商品を高温や風の影響から守り、鮮度を保つことが可能となります。


効率的な物流を実現します
売場の近くに荷物を整理するスペースや駐車場を確保することで、車や荷物がスムーズに流れる市場となります。


さまざまなニーズに応えられる施設になります


食生活の変化に合わせて変わっていく消費者の皆さんのニーズや、産地・小売店・飲食店等のニーズにしっかり対応できるよう、加工・仕分け・包装等ができる施設を設けます。

 

豊洲市場は、食材を扱う市場として合理的で衛生的につくられている。

 

が、観光客としての築地の魅力はカオスな猥雑さにあった、と私は思う。

猥雑さと合理的で衛生的な市場環境は両立しない。

そして、両立しないもののどちらを選択すべきかといったら、当然、後者だ。

豊洲はあくまで取引のための市場なのだから。

築地の猥雑な魅力は豊洲移転で失われた。

豊洲は観光地として、猥雑さにかわる新たな魅力を付加できるのだろうか。

そもそも市場に観光客を呼ぶ必要があるのかどうか、分からないけれども。