糸魚川大火の来し方

かつて、火災は「糸魚川名物」だったらしい。

糸魚川町へ嫁にやると、きりタンスの角が丸くなってしまう、といわれた。火災が多くて、その度に移動させるからである。また、そら火事というと、まず糸魚川の空を見る。近郷・近在のクセとされた。火災多発が注目されたのである。

糸魚川、江戸時代から大火が頻発しているが、当時は「火事と喧嘩は江戸の華」だった時代。「（首都である）お江戸でさえ大火は頻発す。いわんや地方をや」である。
江戸時代以前は不問として、日本が近代国家となった明治以降の大火発生状況を見てみよう。

（糸魚川市史をもとに作成）

大火と呼ぶには小規模の火災も含まれているものの、明治時代、4回はさすがに多すぎ。
昭和に入ってからも3回も大規模な延焼をおこしている。

とはいえ、1954年の最後の大火から60年以上が過ぎた。
2016年、｢もう、さすがに大火はないだろう｣と思っていたところで大火発生。

その焼失範囲をみてみよう。1932年（昭和7年）の火災範囲と今回の大火の範囲はほぼかぶる。

今回の被災地域は、もちろん火災対策はしている。

1951年（昭和26年）　屋根不燃区域の指定
1960年（昭和35年）　準防火地域の指定

ただ、いわゆる「既存不適格」の建物、つまり、屋根不燃化などの規制前に建てられた建物が多かった。

なにしろ火元の建物は1936年（昭和 11 年）築。古い建物とは思ったが、戦前の建物とは思わなんだ。

そして、飛び火が火災範囲を拡大したわけだが、飛び火で延焼した建物の建築年がすごい。

（表出典：平成28年（2016年）12月22日に発生した新潟県糸魚川市における大規模火災に係る建物被害調査報告書）

ほとんどが1932年の大火直後の1933年築。そして15軒中14軒が戦前の建築だ。
屋根不燃区域に指定された後の1971年に建てられたにもかかわらず、飛び火で延焼した建物は1軒にとどまる。

火災前の当該地域は、そこそこちゃんと区画整備もされているし、特に「密集していて危ない地域」という印象はない。
ここより遥かに危険な未整備密集地域は日本全国にある。

ただ、昔は日本では大火が頻発していた。
そして、そのころの建築物の耐火性は低い。その危険性をなめてはいけない。古い木造家屋の多い地域はそれなりに危険なのだろう。

ちなみに、2013年現在、1950年以前に建築された住宅は約164万戸。住宅全体の3.1％だ。
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2013/pdf/nihon02-2.pdf

「残して使い続けたい、歴史を背負った素敵な建物」も稀にはあるが、大抵は「快適性にも安全性にも問題を抱えまくりのあばら家」だ。

現在の建築技術で建てられた家の方が断然快適だし。保全もしやすいし、メンテナンスコストも低い。個人的には、多少の意匠や歴史くらいでは「壊しちまいないよ」と思ってしまう。

今の技術で新しく素敵な建物を建てた方が断然いい。

1950年以前建築約164万戸は多過ぎる。古い家屋はもっと少なくなっていい。「家の建て替えは、大火を防ぐ社会貢献」でもあるのではないか。

【参考資料】
・2017年7月28日「糸魚川を大火にした“昭和8年の木造”」日経アーキテクチュア・ウェブ
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/atcl/bldnews/15/072501530/

・「平成28年（2016年）12月22日に発生した新潟県糸魚川市における大規模火災に係る建物被害調査報告書」
http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0980.htm

・日本の住宅・土地−平成25年住宅・土地統計調査の解説− 結果の解説（総務省統計局）
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2013/nihon.htm

【関連エントリ】
2017年4月27日「糸魚川大火と火災保険」
http://d.hatena.ne.jp/falken1880/20170427#p1
2017年9月24日「糸魚川大火のあとに」
http://d.hatena.ne.jp/falken1880/20170924#p1