2007年時津風部屋少年暴行死事件にみる愛知県警の異常

2007年の時津風部屋少年暴行死事件をつらつら振り返ってみた。

2007年6月26日、4月に時津風部屋に入ったばかりのたった17歳少年が、親方の指示の下に部屋で激しい暴行にさらされ死亡した事件だ。

この事件の社会的インパクトは大きかった。
なにしろ、遺体に誰がみても明らかに凄惨な暴行の跡があるのに、司法解剖もされず「病死」として処理されようとしたのだ。
しかも、愛知県警は加害者である部屋側に遺体を返し、部屋側は証拠隠蔽のためか、早々に火葬しようとした。遺族が強く異議を申し立て、新潟大学で解剖が行わなければ、事件は闇に葬り去られただろう。

…もしかして、警察はザルなのか?日本では殺人も傷害致死もし放題なのか?
疑惑発生である。

その後、判明した事実をみるに、少なくとも愛知県警はザルであったし、対応の不適切さは卒倒しそうになるレベルだった。


まず衝撃だったのは名古屋市行政解剖数だ。
2008年2月11日の産経新聞の記事によれば、2006年の行政解剖数は以下の通りだったという。

東京23区 2,553人
大阪市 1,139人
横浜市 1,240人
神戸市 908人
名古屋市 2人

2人て。

2006年の名古屋市は人口222万人を超える大都市である。また、全国的に有名な暴力団も擁している。それで2人。これすなわち「どんなに疑わしい遺体もスルー」という状況ではないか。

しかしこの人数は、名古屋市では行政解剖予算を年40万円しか組んでいないことによる当然の帰結である。

現場からみれば、行政解剖予算が年40万円しか組まれていないのだから、相当に疑わしい遺体もスルーするしかない状況だっただろう。
被害少年を解剖した新潟大の出羽厚二准教授が「外見で事件性があると分かった」というような凄惨な暴行跡のある遺体までスルーする状況に愕然とするが、ザルであることは愛知県警としての意思だ。

さらにこの暴行死事件で卒倒しそうになった事実は、病院が死因を「急性心不全」としたものを愛知県警が「虚血性心疾患」に変更(というか改竄)して発表したことだ。

「急性心不全」は、急に心臓が止まった「状態」を示す。急に心臓が止まった原因が何か、暴行であるか疾患であるかは「急性心不全」という言葉からは不明だ。一方、「虚血性心疾患」は病名であり、病死を示す。愛知県警は、病院側が「なんで死亡したか分からない」としているものを「疾患で死亡した」と改竄して発表したわけである。

これ、軽く不祥事である。
しかしながら、その不祥事に対する愛知県警幹部の弁明が酷い。

県警幹部は「心不全も虚血性心疾患も一緒だ」との認識を示した。(出典:2007年10月15日「力士休止、検視怠る 愛知県警、病死と判断」朝日新聞

警察官にとって、心不全と虚血性心疾患が一緒でないことは「常識」のはずだ。本当にこんなこと言ったのだろうか。これ、朝日新聞誤報ではなかろうか、と疑ってしまう。しかし誤報でないとしたら愛知県警のとんだ厚顔無恥である。


愛知県警は、殺人や暴行致死を相当意図的にスルーしていたと言える。
なぜ愛知県警はこんな状態だったのだろう。


【参考】
2007年9月28日「時津風部屋、「火葬まで任せて」、急死力士の父、不信募らす。」(日本経済新聞
2007年10月14日「大相撲:時津風部屋力士急死 「愛知県警、初動ミス」 新潟大解剖医が指摘」(朝日新聞
2007年10月15日「力士急死、検視怠る 愛知県警、病死と判断」(朝日新聞
2008年2月11日「力士暴行死の教訓 無言の訴え届かず 署と検視官、連携不足。」(日本経済新聞
2008年2月11日「名古屋、解剖は年2件 死因究明の体制に問題」(産経新聞