ふぐの肝

新年早々、なかなかインパクトのあるニュースが飛び込んできた。

「スーパーでフグの肝入りパック販売」。

え。フグの肝って猛毒じゃないの?

フグの肝臓について
フグの肝臓は有毒部位であり、種類を問わず、天然や養殖に関わらずその販売や提供は食品衛生法により禁止されています。
厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000094363.html

ですよね。

しかしながら、その後判明した事実がおもしろい。
なんと愛知県蒲郡市のそのスーパーでは、長年にわたってフグの肝を売ってきたという。
売っていたのはヨリトフグなるフグ。
店の経営者もフグ処理師も「ヨリトフグの毒性は低く(肝臓を食べても)問題ないと思っていた」という。
そしてヨリトフグによる中毒事故が起きたというのも「聞いたことがない」という。

この店のみならず、この地域ではもともとヨリトフグを肝入りで食べるのが一般的だったらしい。また、このヨリトフグを肝入りで食べる地域は他にもあるらしい。

もしかして、ヨリトフグの中毒事故はないのか?

2000年から2016年までの食中毒事例をみてみる。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html

この17年間でフグ毒の患者数は645名。うち死者数23名。フグ毒の殺傷能力は高い。
しかしながら確かにヨリトフグによる中毒事故は記録されていない。
中毒事故を確認できたフグ名を列挙してみる。

クサフグ、ヒガンフグ、マフグ、ショウサイフグ、トラフグ、シマフグ、コモンフグ、シッポウフグ、ハコフグ、ドクサバフグ、アカメフグ、カナフグ、ウミスズメハコフグ科)、ナシフグ、ゴマフグ、センニンフグ、オキナワフグ

フグには随分とたくさんの種類があるのだな、と初めて知った。
と言っても、450の食中毒事例のうち283例については原因食品欄に「ふぐ」としか書かれていない。

「何フグなのか、それが知りたいんだ」と思ったものの、普通はフグの種類まで知らないし「そこまで調べるべき」という指針も特にないのだろう。

なので本当にヨリトフグによる中毒事故は起きていないのか、それは分からない。
分からないが記録はない。

なお、ヨリトフグから毒が検出された事例は、かつて沖縄で1例だけあるらしい。

★★★

改めて調べてみると、食用可とするフグについて種類によって随分と細かく規定されている。

厚生労働省「自然毒のリスクプロファイル:魚類:フグ毒」
http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/animal_01.html

ナシフグについては以下のものに限り食用が認められている
筋肉(骨を含む):有明海橘湾香川県および岡山県の瀬戸内海域で漁獲されたもの
精巣:有明海橘湾で漁獲され、長崎県が定める要領に基づき処理されたもの

とか。

岩手県越喜来湾および釜石湾ならびに宮城県雄勝湾で漁獲されるコモンフグについては食用不可。

とか。

また、筋肉も含めて「有毒」なフグもいる。名前もずばりドクサバ。
でこのドクサバは、「無毒」な他のフグとよく似ているという。

ドクサバ
無毒種のシロサバフグと混獲されることが多い。シロサバフグとは背面の小棘(とげ)の分布と尾鰭の形が違うが、その他の形態がよく似ているため区別が難しい。ドクサバフグは筋肉を含め全ての部位が有毒なため摂食してはならない。

恐い。「フグは身だけしか食べない」ことにしていたとしても、もしかしたら、身も有毒なフグと間違える可能性もあるのだ。

さらに。

ふぐの毒性は、ふぐの種類や部位(臓器等)、漁獲海域により大きく異なるほか、
1.季節によって毒力が著しく変化し、無毒のものが有毒になったりする。
2.個体差があり、同じ種類、同時期、同海域で獲れたふぐでも、毒力は一様ではなく、有毒のものと無毒のものが混在し、毒力にも大きな差がある。
このため、前に食べたときは大丈夫だったのに、今度は・・・ ということもあります。

(東京都福祉保健局「危険がいっぱい ふぐの素人料理」
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/hugu/

フグを食べると行為自体が相当にリスキーなのだな、と思う。

それでも社会としてフグ毒のリスクを許容しフグを食べる。
さて、問題はどこまでリスクを許容するかだ。

ヨリトフグの肝について、規制緩和というのは検討の余地もあるのではないかと思うのだが、どうなのだろう。

特定海域のヨリトフグの有毒状況について調査し、無毒であれば、その海域で獲れたヨリトフグについては、肝臓も含めすべて食してよいと限定的に規制を緩和するのも「あり」だと思うが。

ただし、もし「ヨリトフグについて肝臓も食べてよい」とするなら、販売の際には「ヨリトフグ」であることを明記することは義務付けて欲しいと思う。

スーパータツヤのパック、「ふぐ」としか書いてないから何フグが分からないし。


現在、精巣を食べてもよいフグは限定されているが、精巣も売る場合はフグの種類を明記されているのだろうか。
捌かれたら何フグだかさっぱり分からないし、そこは明記して欲しいところだが、どうなのだろう。


【関連新聞記事】
2018年1月16日「有毒部位混入のフグ販売、2パック不明 蒲郡」(中日新聞
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2018011590232841.html?ref=daily
2018年1月17日「県が立ち入り調査 蒲郡、フグ肝臓販売のスーパー」(中日新聞
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2018011790000132.html?ref=hourly
2018年1月17日「ふぐ肝販売 スーパー捜索、実態解明へ 愛知県警」(毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20180118/k00/00m/040/041000c