会津東山温泉の廃旅館の行方

東山温泉は、「会津若松の奥座敷」と呼ばれる温泉街である。

◆「東山温泉観光協会」公式WEBサイト
http://www.aizu-higashiyama.com/stay.html

温泉宿やホテルなどの宿泊施設は17軒(2019年現在)。

鄙びた、というより、寂れた印象の温泉街だ。


無理もない。


1992年から94年には年間90万人を超えていた東山温泉の観光客は、2017年には53万人になっている。

観光客は激減しているが、
・日帰り客は全体の約1割、宿泊客が9割を占める。
・福島県からの宿泊客が全体の3割
という傾向は、30年間変わってないのが面白い。

 

【参考】
「平成24年(2012年) 観光客入込数とその実態調査 温泉宿泊者方部別入込数(平成元年(1989年)より暦年)」会津若松市
https://www.city.aizuwakamatsu.fukushima.jp/docs/2013041200023/files/onnsennirikomi_03.pdf

「平成29年(2017年) 観光客入込数とその実態調査 温泉宿泊者方部別入込数」会津若松市
https://www.city.aizuwakamatsu.fukushima.jp/docs/2018031200021/files/onnsenrekinen.pdf

 

ただ、温泉街としては寂れているものの、東山温泉はいい温泉宿が多いようだ。

ちなみに私が最重視する「いい温泉宿の条件」は、次の3つだ。

1.食事が美味しいこと
会津は、数々の美味しい食材を誇る地だ。せっかくなら、会津自慢の米や地酒、そして地元でとれた新鮮な野菜を使った味しい料理を頂きたい。東山温泉には、そうした会津の食材を活かした料理に力を入れている宿がたくさんある。

2.清掃が行き届き、清潔であること。消防法が遵守されていること
どちらかと言えばこれらは「譲れない条件」だけれども。

3.浴場が塩素臭くないこと
「有無を言わせぬ温泉力」というような温泉は火山国日本といえど多くはない。特に首都圏から気軽に行ける範囲にはほとんどない。なのでそこまでの温泉力は求めない。
ただ、温泉を売りにしているのに大浴場が塩素臭いとがっかりする。塩素臭い有名温泉旅館は全国的には珍しくない。
東山温泉は源泉かけ流しの宿が多い。別に源泉かけ流しでなくても「いいお湯」であれば私は満足だ。東山温泉は、充分満足できる温泉の宿が多い。
結論として、東京や埼玉在住者の気軽な一泊温泉旅行に、会津東山温泉はかなりお奨めだと思う。

 

★★★

 

さて、2017年7月に会津東山温泉を訪れてから密かに気になっていたことがある。

東山温泉の中心部の、すっかり廃屋と化したかつての旅館の行方である。

 

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「これ、どうにかなりませんかね」
「特定空家に指定して、行政代執行で解体できませんかね(結構実現が難しいのは知っていますが)」
「多分、(向かいで旅館を営業している)くつろぎ宿・新滝さんとしては、お金が許せば買い取ってでも更地にしたいところでしょうね」

 

なにしろ、この廃墟は「くつろぎ宿・新滝」の目の前に位置する。
多くの部屋の窓から見えるは荒んだ廃墟。景観は台無しである。
「くつろぎ宿・新滝」のすべての宿泊客は、この廃墟を横目にみて橋を渡ってチェックインし、この廃墟を目の当たりにしながら帰ることとなる。
営業に差しさわりがありすぎる。

 

といっても、この新滝さんに買い取りできるような多額の負担が可能かどうかは心もとない。

 

実はこの新滝さん、2005年に特別清算され、事業再生ファンドで「くつろぎ宿」として再生した旅館だ。
再生完了が宣言されたのは2009年1月のことである。

 

【参考】
2009年1月21日「会津東山温泉「くつろぎ宿」の再生完了に関するお知らせ」株式会社リサ・パートナーズ
http://www.risa-p.com/wp-content/uploads/2009/01/89241.pdf

 

ようやっと再生が完了したかと思えば、2011年には東日本大震災で客足が激減する。

震災の影響もひと段落したかと思えば、目の前の旅館が廃墟化するという想定外の事態発生である。

次から次へと苦難の連続である。財政的な余裕があるとは考えにくい。


つらつら、「この廃墟はどうするのだろう」と考えていたら、地元の方から驚きの事実を告げられた。

「あそこ、まだ住んでるんですよ」

え。

誰が見てももう住めるような状態じゃないのに。むしろいつ倒壊してもおかしくはない状態なのに。なんて危険な。

 

でも、廃墟とはいえ私有財産だ。そして住人がそこに住み続けることに執着しているとすれば、無理に追い出すのも、ましてや解体するのも難しい。というか不可能に近い。

 

これは解決困難すぎ案件。

 

どうなることか、と思いつつ帰途についた。

 

それから時々思い出しては検索してみていたのだが、なんと解決していたことを発見した。

 

【参考】
・2018年5月5日「目の前が“廃墟”旅館でイメージ悪化…人気温泉街の戦い方」FNN プライム
https://www.fnn.jp/posts/00305310HDK

・2018年4月6日「倒壊しそうな元旅館、近くの宿が費用負担し撤去へ 福島」朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASL444F8TL44UGTB00D.html


状況をまとめてみる。

 

・廃墟となっていた高橋館は、明治創業の老舗旅館。増築を重ねた木造建物。
・高橋館は高齢の兄妹で経営していた。
・2013年1月に廃業
・2017年10月に所有者が転居
・2018年1月に高橋館の土地と建物を市に寄付

・解体費用は「くつろぎ宿・新滝」が全額負担(解体費用は1000万円?)
・跡地は東山温泉観光協会が使用料免除で活用する


すごい。解決してる。
会津東山温泉、くつろぎ宿、会津市の関係者の方々はどれだけ知恵を絞り、奔走されただろう。そしてこんなにきれいに解決するとは、相当な辣腕である。

東山温泉、かなり有能な方がいるようだ。問題解決能力が高い。

 

くつろぎ宿さんに敬意を表しつつ、また東山温泉に足を運びたくなった。

 

「くつろぎ宿 新滝」ホームページ

http://www.shintaki.kutsurogijuku.jp/