相互会社の理念は機能しうるか

日本では2013年現在、以下の保険会社は相互会社という会社形態をとっている。

朝日生命保険相互会社
住友生命保険相互会社
日本生命保険相互会社
富国生命保険相互会社
明治安田生命保険相互会社

ほんの少し前までは16社を数えた相互会社がいつの間にか5社となってしまっていることに改めて感慨を覚える。

さて、相互会社とは何か。

相互会社の仕組みについては、「日本生命の現状 1012」の42ページに図解などをまじえて解りやすく掲載されている。

「相互会社」は、ご契約者同士が助け合う相互扶助の考え方にもとづく会社形態です。相互会社では、ご契約者が保険加入と同時に会社の構成員である「社員」となり、”「社員」の皆様の声にもとづく経営”を行っています。
(「日本生命の現状 2012」 P.42)
http://www.nissay.co.jp/kaisha/annai/gyoseki/disclosure_h23.html

保険契約者は生命保険会社の「社員」であり、社員の代表者たる総代からなる「総代会」が相互会社の意思決定機関となる。

この仕組みを踏まえれば、保険契約者を「お客様」、「顧客」と呼ぶことは間違っているという主張は理念的には全く正しい。
ただし、現実には保険契約者を「お客様」と呼ばないで「社員」と呼んでいる会社はない。

さてここで問題を提起しよう。
「果たして相互会社の理念は機能しうるものなのか」

私は、少なくとも日本に現存する相互会社5社においては、相互会社理念は機能しえないと考える。
上記5社を批判してそう述べているわけではない。ある意味、それは当然であると考える。理由を3つ挙げよう。

1.生命保険の各種商品は、保険契約者が常に関心を持ち続けられるような商品特性を持っていない。

例えば食料であれば、何を買い、調理し、食するかについて考えない日はない。人は常に関心を持ち続けることができるし、深い愛情と造詣を持つ消費者も多い。
しかし、「万一の際の経済リスク」を常に考えている人など、それを生業としている人以外は通常ありえない。生命保険は、その商品特性から、日常的に関心を持ち、注視し続けることができる商品ではない。
せいぜい、加入を考えた時に集中的に勉強してみる、子どもが産まれたなど、人生の節目に勉強しなおして見直してみる程度である。
毎年、年一回興味を持つという頻度さえも通常ありえない。

2.長期に渡る生命保険商品は高度な金融商品であり、それらを扱う生命保険会社の運営は、専門知識のない市民が片手間にコミットできるようなものではない。
(保障に特化したごくシンプルな保険商品のみを取り扱うのであれば可能かもしれない)


3.直接民主制は多数過ぎては機能しない。

保険は大数の法則に立脚しなければならないことから多数の社員から構成されることが必要となる。多数であればあるほど直接民主制による自治が困難、あるいは不可能となるが、大数の法則が成り立つためには最低で10万人という規模が必要だといわれる。

2012年時点の保険契約者数(社員数)を大まかに挙げてみよう。

朝日生命保険相互会社   約220万人
住友生命保険相互会社   約690万人
日本生命保険相互会社   約1,160万人
富国生命保険相互会社   約180万人
明治安田生命保険相互会社 約640万人

100万人を超える人々が帰属意識を持つ組織運営は、なかなかイメージしにくい。

保険会社は、相互会社としての会社運営にも誠実に取り組んでいる。しかし、例えば日本生命では地域版総代会と位置づけて懇話会を開いているが、その実態は相互会社が機能している状態とはちょっと乖離しているだろう。

結論として、

・契約者100万人を超えるような大企業に相互会社は馴染まない。
・そもそも保険を媒介としてコミュニティーをつくることはまずないことから、広い範囲から任意に契約者を募る形の保険会社では相互会社は機能しえない。

と考える。

個人的には相互会社の理念を愛しつつも、「無理なものは無理」というわけで相互会社の株式会社化は自然な流れであろうし、保険会社は株式会社という形態の方が適正であると考える。

ちなみに相互会社の最大の問題点は、コーポレートガバナンスが働かないことだろう。

相互会社は社員(保険契約者)の代表する総代を選出し、総代で構成される総代会(株式会社の株主総会に相当)が最高意思決定機関になるわけだが、現状では、実質、保険会社の経営陣の選んだ人が総代となっている。いうなれば「経営陣(保険会社)、やりたい放題」体制となっているわけで、これは相互会社の大きな危険性といえるだろう。

ただし、例えば業界のオピニオンリーダーである出口治明氏は「総代をすべて立候補制にして、かつ抽選で総代を選ぶようにすれば、この問題(注:コーポレートガバナンスが働かない状態)はほとんど氷解すると考える」と述べている。(出口治明「生命保険はだれのものか」)

なるほど。

相互会社理念に愛着を持つ私としては、とりあえず総代をめざしてみるか。

<参考図書>
出口治明「生命保険はだれのものか」

出口治明「生命保険入門」
生命保険入門 新版

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消費者向けの視点で書かれていて読みやすく、かつ、これは消費者として知っておかねば的な情報が満載なのが「生命保険はだれのものか」で、断然お奨め。
「生命保険入門」も生命保険を知る本としてこれ以上はない良書だと思う。