アカウント型保険の危険
週間ダイヤモンド 2012年4月21日号の保険特集がおもしろい。超お薦め。
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2012/04/16
- メディア: 雑誌
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その中で「入ってはいけない保険のナンバーワンはアカウント型」というページに「ほほう」と思った。
アカウント型の代表商品といえば、明治安田生命の「ライフアカウントL.A」。
私の記憶に間違いがなければ、発売当初は雑誌等でそれなりに高い評価を得ていたはずだ。
実際、「2000年日経優秀製品・サービス賞 最優秀賞」を受賞してたりする。
保険は、保障と貯蓄の二つの機能を持つことが可能だが、アカウント型の特徴は、保険料のうち、保障と貯蓄に回す割合を自由に変更できるところにある。私はアカウント型の保険商品思想自体は「悪くない」「ありだ」と思っている。
なぜなら、
・一般に、保険に対して保障も貯蓄も両方を求めたいニーズが強い。
・必要保障額はライフステージ(独身・結婚・出産等)によって変わってくる。月々の保険料を変えずに保障額を変化させること(保障増額の際には告知が必要だが)や、保険料自体を変化させることもできる柔軟性を持つ保険商品は確かに魅力的である。
机上の理論ではアカウント型保険は大変合理的で魅力的に思えるのだ。当初の高い評価は、それはそれで理解できる。
しかし。
「お奨めしない保険は、複雑過ぎて、一般の人には理解できない商品」(週間ダイヤモンド)。
正論。生命保険も金融商品のひとつ。金融商品は「理解できない商品は買わない。利用しない」のが鉄則である。
「(アカウント型が)何より問題なのは、『契約者がまったく保険の内容を理解していないこと』」(週間ダイヤモンド)。
あかん。それは致命的。
理解できない理由は何なのか。
かなり前のことになるが、ライフアカウントの提案資料をみて「まじで解らん!」と思ったことがある。
私は生命保険とその周辺に関してはそれなりの専門知識を持っている。その私をして理解できないということは、まず、一般の人が理解できる資料でないことは断言できる。
失礼ながら、そもそも明治安田生命の営業の人自体がこの提案内容を理解できているのか疑問に思った。生命保険会社の営業は在籍年数が短いことが多い。
私がみたのは貯蓄性の高い既存契約の転換提案資料であった。あれはもしかしたら、故意に分かりにくく作成していたのかもしれない。あの当時、予定利率の高い既存契約を転換させて貯蓄部分の予定利率を下げ、逆ざやを解消することが生命保険会社の最大のミッションだった。
実際、その提案資料には「その誘導の仕方は不適切では?」「そのコメント表示は故意に契約者の誤解を誘っているとしか思えない」という部分があった。
しかしながら、例えば自分自身が新規にシンプルなアカウント型のプランを顧客に提案するとしても、最大限、解りやすい資料を用意したとしても、それでも顧客に理解していただくことは実際には非常に難しい。
ダイヤモンドの記事中にも「以前にこの保険を販売していたFPが『お客さまに理解していただけることがほとんどなく、大変苦労した』と語っている」とあるが、これは本当によく分かる。
顧客に対し、商品レベルが高すぎるのだ。
どんな商品でもそうだが、使いこなせない機能は契約者にとって意味がない。ことに金融商品の場合、意味がないどころか、むしろ害になる場合がある。
理解していない、理解できないということは、自分に不利益な内容であっても、また、不利益な内容に変更されても解らないということだ。
なにしろ、生命保険の必要性は契約者自身の価値観で決まる。例え、平均的なサラリーマンに1億円の死亡保障を提案しようが、「間違った提案」ではないのだ。生命保険は、契約者のニーズ、価値観、将来予想により必要な保障が決まるので「間違った提案」というものはない。「不適切な提案」とは言い得ても。
保険会社がもってくる提案は「間違って」などいない。問題は、提案された側の個人がその提案に対して賛同して契約するか否かなのだ。よって提案内容を正しく理解しなければ賛同もしえないわけで、とても契約などできるものではないのだ。理解していない生命保険など契約してはいけない。
さて、保険提案の現実を考えよう。
まず保険には保障機能と貯蓄機能があるが、一般に保障部分の方が保険会社の利幅は大きい。また、保障の中でも死亡保障、災害死亡保障、医療保障等々、それぞれ利幅は違う。
当然ながら、保険会社の利幅が大きく、保険会社が儲かる保障部分には、営業に対し販売手数料が高く設定される。
よって営業は、手数料の大きい部分を厚くしたプランを提案するだろう。
その提案が契約者にとって有利なものである可能性は低い。また常識的な必要性を逸脱した提案である可能性も大いにある。
仮に、他人が「実にいいプランだ」と評価したとしても、理解できない保険が「よい保険」であることはありえないと断言しておこう。「よい保険」と判断することは契約者本人しかできない。理解できなければその判断ができないのだ。
確かに「アカウント型保険を理解できない」のであれば契約してはいけない。
「理解できない」ということはアカウント型の「自在に(保障額や貯蓄部分を)コントロールできる」という利点がまったく利用できないということだ。
しかも契約後、保険会社が「変更を提案」し、契約者が「変更に同意」するプロセスを経て運用していくのだろうが、提案が理解できないと、保険会社に契約内容をいいようにコントロールされても気が付くことができない。
要は「保険会社にいいようにカモられる」ということである。
理解できないのに契約して、不当な不利益を被らないと断言できるほど信頼できる保険会社などない。
個人的には「ほとんど詐欺ちゃうか」というような酷いチラシを配る保険会社は全くもって信用できないが。