かんぽの養老保険に加入するということ

養老保険といえば貯蓄目的の保険の代表格であるが、養老保険は数年前から「どう考えても契約するなんてありえない」商品になり果てている。

今や標準利率(予定利率)は1%にまで落ち込んでいる。その結果、ほとんどの保険会社の養老保険は単純に「満期金」より「払い込んだ保険料の総額」の方が大きくなるという、まったく貯蓄目的を果たせない状況に陥っている。
もはやどう頭をひねっても加入を検討する余地すら思いつかない。

かんぽ生命も同様だ。見積もりをしてみるとよく分かる。
http://www.jp-life.japanpost.jp/products/lineup/yoro/prd_lu_yr_index.html

しかしながら「養老保険など、どう考えても終わった商品のはずだ」と思い込んでかんぽ生命の契約状況をみると驚愕する。なんと保有契約、新規契約(2012年4月〜2013年3月)の約60%が養老保険なのだ。

まじですか。

考えられる理由はこんなところだ。

1.満期を迎えた契約者は、営業の人に勧められるままにまた養老保険契約をしている。

恐るべきは慣性の法則か、かんぽの営業力か。

2.死亡保険金を厚くして「貯蓄性金融商品としては終わってる」ことをうまくごまかして売っている。

消費者の金融リテラシー的に、ここでごまかされてしまっていいのだろうか。

3.「かんぽの養老保険は絶対得だから入るべき」という20年以上前の「常識」が更新されていない。

21世紀になって「かんぽの養老保険は絶対お得だから入っておくべきだ」と父親にアドバイスされた子ども(社会人)を知っている。

確かに、まず、戦後復興期(1945年〜1965年)を代表する生命保険商品は養老保険だった。
そして、保険料を決定する重要な要素である予定利率は、常に簡保が引き上げを先行している。
具体的には簡保は、1974年に保険期間20年未満5.5%、20年以上5.0%に引き上げ、1984年には6.0%に引き上げている。
これにひきずられて民間生保も予定利率を引き上げたことが、全ての生命保険会社を苦しめた逆ざやや、そしていくつかの生保破たんの原因の1つだという生命保険会社の恨み節も確かに一面では正しい。
とはいえ、こんな「恨み節」が許されるのは、あくまで居酒屋での仲間内トークに限るだろう。もしも生命保険会社職員がそんなことを公に発言したらあまりにもみっともない。例えば東邦生命の破たん原因は、どう考えても明らかに常軌を逸した放漫経営だ。

なお、1993年に民間生保が4.75%に引き下げたが、簡保は5.75%のままで、予定利率の引き下げは民間生保が先行している。

というわけで、双方とも3.75%に引き下げた1994年まではこの父親の主張は概ね正しい。しかし、20年前に正しかったことが今も正しいわけではない。

どんなに信頼する人物のアドバイスでも「今、自分にとって、正しいかどうかの検証」は絶対必要だ。

★★★

実を言えば私は1998年に15年満期の普通養老保険に加入している。
1998年、予定利率2.75%。満期保険金額100万円。月払保険料5,240円(払込保険料総額943,200円)。1年前納保険料61,046円(払込保険料総額915,690円)。
元本割れ期間は長かったが(しかも申し込むときに元本割れ期間を営業職員に聞いても分からない状態だったが、そこは前世紀の保険契約ということで)、生命保険料控除を加味して契約はぎりぎり「あり」だったと思っている。

しかし、今、養老保険に加入するという選択はどう考えても「ない」。

にもかかわらず、2012年4月〜2013年3月の1年間のかんぽ生命の養老保険新規加入件数は143万件。
人間は必ずしも合理的な行動をするとは限らないのだけれど、それにしても理解を超える数字である。

かんぽの養老保険契約者リストとはすなわち…、金融業者にとって「おいしいカモ(なんとか弱者)リスト」では?とも思う。
とりあえず、そんなリストに名を連ねるのはやめておこう。


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これは本当に名著。
出口治明「生命保険入門」

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