災害弔慰金は多額すぎないか

今回の東日本大震災もそうだが、災害(暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震津波など)で死亡すると災害弔慰金が遺族に支給される。

「被災者支援に関する各種制度の概要(東日本大震災編)内閣府平成23年5月27日現在)」をみてみる。
http://www.bousai.go.jp/fukkou/kakusyuseido.pdf

●災害により死亡された方のご遺族に対して、災害弔慰金の支給等に関する法律に基づき、災害弔慰金を支給します。

「弔慰金」を支払うこと自体に異議はない。災害により突然死亡した場合の遺族の精神的ショックは大きい。また「災害さえなければ、このタイミングでこんな死に方をすることはなかったのに」という遺族の無念も理解できる。

●支給の範囲・順位は、死亡した方の(1)配偶者、(2)子、(3)父母、(4)孫、(5)祖父母です。

この弔慰金はあくまで見舞金である。遺族の生活保障を目的としたものではないと理解している。だから「同一世帯の」といった制限がつかないのだろう。
今回の東日本大震災では、高齢者の死亡が多い。別居の子が受取人になった場合など、同居していない遺族に支払われたケースが多かったのではないか。

で、いくら支払われるのか。

●災害弔慰金の支給額は次のとおりです。
・生計維持者が死亡した場合:市町村条例で定める額(500万円以下)を支給
・その他の者が死亡した場合:市町村条例で定める額(250万円以下)を支給

「市町村条例で定める額」とはなっているが、今回、どの自治体でも上限の500万円または250万円が支払われているようだ。

見舞金に500万円または250万円は多額すぎないか?

例えば、東日本大震災では次のようなケースは一般的ではなかったのか。
三陸海岸沿いの田舎に老夫婦のみ居住。子どもは仙台などの都市在住。年1回の里帰りがあるかないか。仕送りなどはなし。津波により夫婦とも死亡。

この場合、生計維持者1名、その他の者1名死亡、計750万円が子どもに支給されるのだろうか。


また、災害弔慰金は災害関連死も支給対象となる。
避難所でのエコノミークラス症候群による死亡など、無視されていいものではないし、関連死に「弔慰金」が支払われることに異議はない。

1995年1月17日 阪神淡路大震災。死者6,434名、行方不明者3名。うち900人余りは災害関連死。
2004年10月23日 新潟県中越地震。死者68人。新潟県中越地震の関連死の事例をみてみる。

・84歳女性が、地震疲労等による誤飲により死亡
・87歳女性が、地震及び避難による強いストレスから、出血性ショックで死亡
・52歳男性が、全村避難となった山古志地域での排雪処理作業後、パワーショベルをトレーラーに積み込む作業中、過労が原因となり操作を誤り、道路わきの河川に転落し溺死したもの
・71 歳男性が、地震後の疲労等による心筋梗塞で死亡

出典:「平成16 年(2004 年)新潟県中越地震(確定報)消防庁http://www.fdma.go.jp/data/010909231403014084.pdf

微妙に違和感が。
個々の事例は痛ましいし、哀悼の念は持つものの「災害関連死」の認定基準を明確に定めるのは難しいのではないかという疑問は感じる。
大規模災害が起きれば、被災者のそれからの人生は、その災害との関連なしには存在しえない。

災害関連死は遺族から申請され、審議され、認定される。「関連死と認められたら災害弔慰金500万円(あるいは250万円)」。関連死申請の充分な動機となる金額であることは間違いない。

提案。災害弔慰金の支給等に関する法律」第3条第3項を改正した方がよくないか。

災害弔慰金の支給等に関する法律
(災害弔慰金の支給)
第三条  市町村(特別区を含む。以下同じ。)は、条例の定めるところにより、政令で定める災害(以下この章及び次章において単に「災害」という。)により死亡した住民の遺族に対し、災害弔慰金の支給を行うことができる。
2  前項に規定する遺族は、死亡した者の死亡当時における配偶者(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含み、離婚の届出をしていないが事実上離婚したと同様の事情にあつた者を除く。)、子、父母、孫及び祖父母の範囲とする。
3  災害弔慰金の額は、死亡者一人当たり五百万円を超えない範囲内で死亡者のその世帯における生計維持の状況等を勘案して政令で定める額以内とする。

第3条第3項改正案
3  災害弔慰金の額は、死亡者一人当たり百万円を超えない範囲内で政令で定める額以内とする。

100万円でなく30万円でもいいが。

改正理由
・見舞金としての性格をふまえ、社会通念上、妥当な金額を上限とし改正する。
・見舞金であるにもかかわらず、生計維持者か否かを考慮して金額を変える必要はない。1人につき一律の金額でよいのではないか。
・「500万円(あるいは250万円)もらえたらラッキーだから、とりあえず申請しとけ。」という申請を抑制し、行政実務の低減をはかる。

どうだろう。

いうまでもないが災害弔慰金は税金から支払われるものだ。現行の災害弔慰金が果たして社会的に有意義な税金の分配なのか、一考してもよいのではないだろうか。

仮に、東日本大震災で、1万人が250万円、5千人が500万円の災害弔慰金を申請したとすると計500億円。大きい。

私としては災害弔慰金を引き下げ、その分、震災によって進学などをあきらめる若者が出ないよう、給付型の奨学金の充実させることを提案したい。
ただし、奨学金の対象者は被災者に限らない方がいい。
被災者でなくても経済的に進学が苦しい若者もいる。対象者を被災者に限る奨学金は「被災利権」の側面を発生させてしまう。

いずれにせよ、お金は生きている人がよりよく生きるために使った方がいいと思う。

【更新】
2016年5月 奨学金の対象者は被災者に限るべきではない旨、追加して更新。