アナログ放送が終了した日。そしてブラウン管テレビの消滅

2011年7月24日、アナログ放送が終了した。

長い長い間、考えうる限りの様々な方法で終了の呼びかけが行われていた。その甲斐あって、2010年12月の時点で、デジタル対応テレビの世帯普及率は95%。*1
2011年初めには見渡す限り、どこもデジタル対応の薄型テレビに買い替えが完了していた。


そんな中、2011年に突入しても、小さなブラウン管テレビが鎮座する小さなラーメン屋があった。
ほとんど客がいない店内。ドアを開けると、老夫婦が二人、テレビをみている。
そんなラーメン屋だった。
2011年、アナログ放送停波のカウントダウンがされる中、相変わらずラーメン屋で粘るブラウン管テレビ。

一体、どうなるんだろう。

7月24日の夜、ワクワクしながらこのラーメン屋を訪れた。

ドアを開けると、物言わぬ箱と化したブラウン管テレビが鎮座し、ラジオ放送が流れていた。

こんな鮮烈にアナログ放送終了を体感できる空間はない。

「アナログ放送終了とともにラジオに還ったか」と納得して店をあとにした。

しかし、1か月経たず再訪したらブラウン管テレビが姿を消し、同じ場所に小さな薄型テレビが鎮座していた。

アナログ停波は、強制的にブラウン管テレビを駆逐した。

もちろん高齢者の家庭やかつての子供部屋などに、今でもただの箱と化したブラウン管テレビが転がってることもあるだろう。
でも、パブリックな場でブラウン管テレビを見かけることはもうない。そして、自分の身の回りで見かけることも、もうない。


2016年の今、昔の映画だのドラマだのの映像作品で、ブラウン管テレビが映ると実際以上に古く感じる。80年代ごろの作品かな、と錯覚する。

でも、冷静に振り返れば、薄型テレビの普及率は2007年で20%弱。このころまではブラウン管テレビの方が主流だ。
よくよく記憶を掘り起こせば、2004年頃に友人宅で画面の大きな薄型テレビをみて「うわあ」と思った記憶がある。あの頃は珍しくも高価なものだった。
それが2011年にはほぼすべてのブラウン管テレビは薄型テレビにチェンジ完了。今思い返しても急激な変化だ。

そして「今、まったく見かけることがなくなった」ということの威力はすごい。
ブラウン管テレビが、こんな急速に「古びた印象を与えるアイテム」になるなんて、思わなかった。
この急激な変化は、時代感覚さえ狂わせる。


(2017年2月:It's aSony展の展示)

*1:2011年3月10日総務省地上デジタルテレビ放送に関する浸透度調査の結果