交通災害共済、それは前時代の遺物、そしてダメ自治体の指標
交通災害共済なるものがある。
「交通事故によるケガや死亡に備えましょう」ってやつである。
交通災害共済は、交通事故が大きく社会問題化した1960年代に開始された。
で、これがまた、本当に過去の遺物なのである。
なんといっても必要性がない。なぜなら、交通事故の死傷は自賠責保険で手厚く補償される。
自動車事故で死傷したら、自賠責保険の対象である。なんと、治療費の自己負担なし(120万円限度)。死亡保険金は最高3000万円。ぶっちゃけ、交通事故で「儲かる」ことはあっても「金に困る」ことはない。
「交通災害共済では自転車事故も補償するよ。自賠責保険は、自転車事故は補償しないでしょ」という苦しまぎれの主張もあったようだ。
が、この主張は粉砕できる。
1.日本は国民全員が健康保険に入っている。健康保険を使えば、基本的に自己負担3割なので、治療費というのはそんなにかかるものではない。
2.交通災害共済で共済金を支払うには、当然ながら「交通事故であること」が条件になる。通常は交通事故であることを証明する書類が必要。警察に届けて受理されれば「交通事故証明書」が発行されるが、受理されない場合も多い。そりゃ「自転車で転んでけがしましたぁ」って言われても「ほんとかよ」っていう。
なお、現在、区民交通傷害保険では、事故の状況を本人が申告すれば請求できるようになっている。
つまり「自転車に乗ってて転んでケガしちゃった」と申告しさえすれば、保険金を請求できる。
ちなみに2014年度、豊島区での請求の76%が「自転車搭乗中の事故」だそうだ。うむ。請求天国。
3.自転車事故において、唯一、必要性があるのは、「賠償責任補償」である。相手方にケガをさせてしまった場合、何千万円という賠償請求をされることがある。で。交通災害共済には賠償責任に対する補償はない(特約で自転車賠償責任補償をつけられる交通災害共済もあるが、特約目当てでわざわざ交通災害共済に入る必要はない。自動車保険または火災保険に個人賠償責任保険を特約でつけた方が合理的だ)。
結論。交通事故への備えとして、交通災害共済はマジ「使えない」。
★★★
交通災害共済の問題は、それだけではない。
交通災害共済に入っていると、「交通事故にあうと儲かる」。交通事故にあって通院すると小金が稼げるのだ。
交通事故の場合、自賠責保険のおかげで、治療費はかからない。
で、交通災害共済で通院日数に応じて共済金が支払われるとなれば、頸椎捻挫、俗に言う「むちうち症」ってやつで、それはもう、めいっぱい通院するのである。しかも整形外科だけでなく、接骨院(柔道整復師による施術)も対象となるから余計に始末に悪い。
なんというか。ここで言わせてもらおう。
「交通災害共済に入っている”善良な市民”は本当にバカをみている」。
支払っている掛金は、ヒマにあかせて通院して請求をしまくっている不心得者や、通院をあおりまくる接骨院への「喜捨」になってしまっている。
また、共済運営のための事務処理コスト、人件費もバカにならない。交通災害共済事業に、年間どのくらいの税金がつぎ込まれているのか。是非、調べてみるべきだろう。交通災害共済事業なんかやっていて地方債を発行しているとか、交通災害共済事業につぎ込まれる事業費分だけまるまる許しがたい。
「交通災害共済は、無用の長物。百害あって一利なし」
★★★
さて、そんな交通災害共済、東京23区では、2001年に廃止している。
ただし、代わりに「区民交通傷害保険」なるものを実施している区が10もある。もちろん、交通傷害保険も交通災害共済同様、無用の長物である。
ここに「前時代の遺物を終了できない残念区」を晒しておこう。
交通傷害保険実施区:港区、文京区、台東区、墨田区、江東区、渋谷区、豊島区、北区、荒川区、練馬区(2014年10月現在)。
交通災害共済の状況から、自治体の優劣を推測することができる。
Aランク.優良自治体…交通災害共済を廃止している自治体
東京都(目黒区、世田谷区、千代田区、中央区、杉並区、新宿区、品川区、中野区、大田区、板橋区、足立区、江戸川区、葛飾区)、
北海道札幌市(2004年廃止)、
山形県鶴岡市(2015年廃止)、福井県福井市(2014年廃止)、
栃木県(2006年廃止)、埼玉県さいたま市(2008年廃止)、神奈川県横浜市(2006年廃止)、
長野県長野市(2007年廃止)、長野県恵那市(2009年廃止)、岐阜県中津川市(2011年廃止)、
愛知県名古屋市(2006年廃止)、三重県(2008年廃止)、
愛媛県松山市(2015年廃止)
長崎県佐世保市(2010年廃止)、鹿児島県鹿児島市(2011年廃止)
など。
廃止年は確認できないものの、特に大規模な自治体では、とっくの昔に廃止しているところが多いようだ。
ちゃんと無用の長物を廃止できる判断力と実行力のある自治体も多いのだ。
Bランク.ダメ自治体…交通災害共済(交通傷害保険含む)を実施している自治体
青森県(全市町村)、秋田県(能代市、大館市など)、山形県(天童市など)、岩手県(全市町村)、茨城県(全市町村)、福島県(福島市など13市)、新潟県(全市町村)、
千葉県(木更津市、茂原市、成田市、流山市など)、埼玉県(深谷市、志木市、和光市、新座市、富士見市、坂戸市、鶴ヶ島市、熊谷市、朝霞市など)、
東京都(23区以外の全市町村)、
長野県(松本市、上田市、飯田市、須坂市、小諸市など)、山梨県(甲府市)、
大阪府(吹田市、大東市など)、滋賀県(全市町村)、兵庫県(播磨町など)、愛知県(北名古屋市)、山口県(萩市、下松市、光市、長門市、柳井市、美祢市、周南市、山陽小野田市)、長崎県(島原市、平戸市、対馬市、雲仙市など)
など。
「交通災害共済やってます」なんて、ダメ自治体のラベルをべったり貼っているようなものだと思う。なぜ廃止できないのか。
Cランク.ワースト自治体…交通災害共済の加入率が70%を超える自治体
長野県(伊那市、大町市、飯山市、千曲市)、
青森県(外ヶ浜町、深浦町、西目屋村、田子町)など。
(上記、2014年現在の加入率)。
加入率が70%を超えるなんて、なんらか強制力がなければ成り立たない。町内会などが「全員加入」とかいう活動をやっているに違いない。こんな不毛な共済への加入を強要?
集金とか結構人手がかかってるはずだが、こんな前時代の遺物のためにボランティアなんて泣ける。
そんな自治体、心から住みたくない。
Cランク.ワースト自治体その2…交通災害共済の掛金が全額自治体負担(本人負担なし)の自治体
熊本県(人吉市、宇城市、美里町など)
税金の使い方、間違いすぎ。これで「財政再建団体」なんぞに転落したら本当に脱力する。
まったくもって、「交通災害共済には加入するべからず」、「交通災害共済は廃止するべし」である。
<更新情報>
2015年8月22日 自転車の事故について、交通傷害保険では昔は目撃者の証明が必要だったが、現在は自己申告さえすれば請求できることを確認したため修正。