鉄道不正乗車の今昔

不正乗車が激減している、という統計や試算があるかどうか、知らない。
でも、今はできなくなった不正乗車というのが確実にあることを考えると、不正乗車は激減しているのは間違いないだろう。

今は亡き不正乗車を思い出してみる。

その1.顔パス乗車

私がまず思い出すのは、このエピソードである。
時は1965年〜1970年(昭和40年)ごろか。
とある田舎駅。

「某さんは、いっつも「よっ」とだけ言って、改札を通っていた。定期券を見せることはなかったねぇ」。

顔パスかい。

時折、このエピソードを思い出す。ふと疑問が浮かぶ。
「某さん、当時、ちゃんと定期券、買ってただろうか」
少なくとも、何日か何週間程度は、期限切れの無効定期券で乗車してたんじゃなかろうか。
「故意」か「うっかり」かはさておき、顔パス不正乗車は大いにありうるだろう。

某さんはサラリーマンだった。もし、本当に定期を買わずに乗車していたら、勤務先からみれば通勤費の横領にもなる。発覚すれば懲戒解雇の事例ではある。
でも、種々の田舎の人間関係や諸々を考慮するに、「ばれて解雇ということは、まずなかっただろうな」と思う。

こんな風に、「駅員と顔見知りで仲良しの地元民」が顔パス乗車しちゃうのだ。
昭和の時代、ヤクザものはもちろん、町長だのの権力者で、顔パス不正乗車する人、絶対いただろう、と確信している。

もちろん、今は自動改札だから、この顔パス不正乗車は、不可能である。

その2.キセル

キセル、といって通じるのは何歳以上なのだろう。でも、ある年齢以上の人なら、ほぼ間違いなく通じる言葉だ。
定期で通勤か通学をしていた人で、やったことのある人はかなり多いのではなかろうか。

キセルがどんな不正乗車かというと、「横浜〜戸塚(自宅最寄り駅)の定期を持っていて、たまたま新宿に出かけて、帰りに新宿〜代々木の切符で乗車して、定期券で戸塚で下車した」みたいな、要するに中抜き乗車である。

まぁ、時々、イレギュラーな乗車をするときのキセルなど、たかが知れているが、長距離通勤定期でキセルをするとエグイ。

例えば、「新宿〜戸塚間を毎日通勤しているのに、新宿〜代々木、東戸塚〜戸塚の2つの定期で乗車していた」という場合だ。こういう長距離定期のキセルは、距離とキセルしている期間が長ければ、不正額は数百万円にも膨れ上がる。これはさすがに誰もが「懲戒解雇が超妥当」と考えるケースだ。


でも、これまた「どこで乗車したか」という情報を付加する自動改札のおかげで、キセルはほぼ絶滅しているはずだ。

★★★

技術によって、不正乗車がほぼ完璧に防げて、乗客の衡平性が保たれる。技術の進歩、すごい。

…と思っていたが、不正乗車について調べたら、実は、「自分、今でも時々、不正乗車してる」ということに気が付いた。

今もよくある不正乗車例。

その1)区間外の駅構内で駅弁やお菓子などの物品購入。

例えば、新宿から乗車し、ちょいと東京駅構内でバウムクーヘンを購入して、東京駅から折り返して飯田橋で下車、支払は、新宿〜飯田橋間の片道運賃のみ、とか。
これ、まったく不正乗車の意識なかった。

その2)定期券の区間外乗車

例えば、持っている定期券が新宿〜東京(中央線)なのに、山手線で新宿〜東京を移動したら不正乗車

この「定期券の区間外乗車」、時々やってる。そういえば、定期券の区間外乗車が不正乗車なのは、昔、調べて「知って」いた。しかし、不正乗車のときに「これ、不正乗車だ」「悪い」という意識はなかった。見事に都合の悪いことは忘れるものだ。

むう。
今の不正乗車の特徴は「不正乗車であることを自覚してない不正乗車」か。