厚生年金制度を廃止すべきこれだけの理由

日本の公的年金制度はどうあるべきか。
現行の制度(既得権益)に拘って小手先の改正に終始しても問題は解決しない。既得権益はひとまず無視して「どうあるべきか」を考えてみる。

私は厚生年金保険(いわゆる2階部分)は廃止すべきだと考えている。

厚生年金制度はそもそも設計の思想が古すぎるのだ。
個人ではなく家(世帯)を単位に設計されている。もう江戸時代は終わったのに。大日本帝国憲法日本国憲法に改正されたのに。年金は個人単位で設計すべきだろう。
また、家事が軽労働化したことをふまえると「サラリーマンと扶養される妻(専業主婦)」という前提モデルも不適切だ。

厚生年金制度の具体的問題点をみてみよう。

1.サラリーマンの妻(3号被保険者)問題

まずよく語られる3号問題である。
サラリーマンに扶養される妻(専業主婦)は、年金保険料を払わなくてよい。タダで年金受給資格を得ているという非常に恵まれた立場にある。
彼女ら約1000万人(!!)の保険料は他のサラリーマン(と企業)が負担している。

なぜ彼女らは保険料を免除されるのか。

その昔、家事負担も介護も子育てもすべて妻が担っていた。家庭を担う妻の年金保険料は免除でもいいという考え方は、昔はそれなりに説得力があったかもしれない。
しかし、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、掃除機の普及は大きく日常生活を変えた。家事は時間も労力もかからないものとなった。介護も介護保険と専門職が誕生して負担は激減した。子育ては相変わらず、それなりに労力と時間がかかるものではあるが、その期間はそれほど長いものではない。

今日、彼女らが保険料を払わなくてよいと多くの人が納得する合理的理由はない。

しかし大体において3号被保険者の制度ができたのは1985年。当時、すでに制度に対する納得感はなかった。安直で浅慮な3号被保険者制度は大きな禍根を残し現在に至っている。

大体、自営業者の妻は月々 15,040円 (2013年度)の保険料を支払わらなければならないが、サラリーマンと結婚した専業主婦は保険料免除というのは説明がつかない。
自営業者の妻は、家事、介護、子育てなど家庭を担うのに加えて商売についてもパートナー的役割を果たしていることが多い。
一般に、サラリーマンの妻より自営業者の妻の方がハードな役割をこなしている。にもかかわらず自営業者の妻の場合、月々15,040円の保険料は免除にはならない。サラリーマンの妻ならば払わなくてよいのに。

これは普通に誰もが納得できない。

サラリーマンの妻も自分で国民年金保険料(月々15,040円)を支払うべきである。

厚生年金制度も含めたこの「扶養される妻への不合理な優遇」が様々な社会の不適正を生んでいる。
日本で女性の社会進出が進まない理由は何か。まず筆頭に挙がるのは厚生年金制度ではないか。

多くの女性は扶養される配偶者の税・年金などの経済的メリットがあまりに大きいために年収130万円以下となる働き方を指向する。低賃金、限られた時間内で働くパートなどの雇用者にとって都合のいい低賃金女性労働者が生み出されている。
そしてそのことは、扶養されていない女性(離婚・独身など)に大きな不利益をもたらしている。

女性の社会進出推進を実現したいのであれば、厚生年金の3号被保険者制度と所得税配偶者控除を廃止すべきだ。
この2つの制度の廃止に触れずに「女性の社会進出推進」をうたっているとすれば、それはただのポーズで本気ではない。

2.会社の保険料半額負担が重すぎる

厚生年金の保険料は、半額は個人が、半額は会社が負担する。
この半額の負担が重過ぎる。制度のルール上は厚生年金に加入しなければならないパートなどの労働者の多くが厚生年金未加入なのは周知の事実だ。
ルールを守らない企業が悪いのか。私はむしろルールに無理があるように感じる。

そもそもなぜ従業員個人の厚生年金保険料の半額を会社が負担しなければならないのか私にはよく分からない。

3.国民年金(自営業者)との格差がありすぎる
(1)年金受給額格差が大きすぎる
自営業者は国民年金加入であるが、国民年金と厚生年金ではその受給額の違いが大きすぎる。自営業者はサラリーマンと違って定年がないからとよくいわれるが、正論としては定年後も労働能力があるなら求職して働けばいい。

(2)厚生年金だけにある保険料免除制度
厚生年金の加入者なら、育児休業中、保険料が免除される。免除されるにもかかわらず年金額の計算上、免除分は納付されたものとみなされる。
これは国民年金にはない制度だ。なぜないのかが不思議なのだ。
少子化対策をいい、育児を尊重するならば、例えば子ども1人につき親権者1人、国民年金も3年間、保険料免除(免除期間は納付したものとみなす)という制度もつくったらよいと思う。

★★★

厚生年金制度は今や社会への悪影響の方が大きい制度になっているのではないか。
根底から無理のある制度はできるだけ早く廃止した方がいい。

国が公的年金制度として提供する制度は現在の国民年金制度程度で十分だ。

確かに「豊かな老後」には国民年金だけでは足りない。
しかし、国が保障する義務を負っているのは「健康で文化的な最低限度の生活」だ。公的年金で豊かな老後というのは、やっぱりちょっと違うだろう。
豊かな老後のための上乗せは個々人が備えるべきものだ。そのための年金系金融商品の提供は民間金融機関が行えばいい。

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