砂防ダムの内の集落

日本全国、「なぜそんなあからさまに災害リスクの高いところに家を建てるかな」と思う集落は数限りなくある。

しかし、さすがに「砂防ダムの内の集落がある」と聞くと耳を疑う。
そんな集落あるのかいな。

ここか。航空写真を見てみる。

…ほんとに砂防ダム内に家々がある。

どういうこと?

京都府のホームページに説明があった。
http://www.pref.kyoto.jp/sabo/1330927775154.html

天神川(紙屋川)開キ地区の不法占拠について

京都市北区衣笠の天神川(紙屋川)開キ地区は、一級河川天神川の上流にあり昭和28年に完成した砂防ダムの堆砂敷で河川区域でもある国有地になっており、ここに許可なく建物を建設することは河川法違反になります。しかしながら、このダムの建設後、住むところがなく困った方が、次第に集まり住み始めたものと思われます。

砂防ダム内は国有地。ここに住宅の建設許可は出ていない。なので不法占拠になる。
それはそうだろう。

して、この砂防ダムがいつできたかと言えば1953年。
終戦から8年。まだまだ日本社会が混沌としていたころだ。
当時であれば、ここに行き場のない貧困層の人々が住み始めたというのも「あるだろうな」と思う。

で、今は何戸あって何人が居住しているのか。

 京都府としては、昭和30年代から建物の撤去などを指導してきたところですが、生活の基盤がないこと等から、居住者数は減少しているものの居住が続き、現在に至っています。(平成25年度の調査では28世帯54人、住居は46戸(うち空き家16戸))

2013年時点で28世帯54人、住居は46戸(うち空き家16戸)

また、最近の集中豪雨等により、ここ6年間で5回も浸水被害が発生している状況であり、もともと砂防ダム内であるため居住者の安全を確保できず、大雨時には増水や土石流の危険性があることを、お伝えしているところです。

せやな。

実際、衣笠開キ町では、2012年7月15日の大雨時には、床上浸水28件が生じ、住民4名がボートで救出されている。
(出典:京都市「平成24年7月15日の大雨・洪水警報に伴う被害状況等について」)
http://www.city.kyoto.lg.jp/gyozai/cmsfiles/contents/0000132/132345/(siryou2)7gatu8nitiooamehigaijyoukyou.pdf

なお、この集落に建つ住宅の写真をみたところ、住宅を「高床式」にして水害をしのいでいるようにみえる。浸水被害は織り込み済みでここに住んでいるのだろう。

が、危険は床上浸水などだけではない。ここは砂防ダムだ。土石流の可能性も高い。

 京都府では、これまでも鴨川の陶化橋や桂川の新川地域といった大規模な河川敷における建物の対策に全力をあげ、これを解決してきたところですが、平成24年11月に、国、京都府京都市三者で構成する「河川敷地環境整備対策協議会」の部会を設置し、平成25年度には砂防課に「天神川環境整備担当課長」のポストを置き、「居住状況等調査」(聞き取り調査)と「測量調査」を実施し、また、平成26年度から空き家の撤去を実施し、これまで15戸(26年度2戸、27年度7戸、28年度4戸、29年度2戸)を撤去するとともに、毎週、現地訪問するなど粘り強く取組を進めているところです。

すごい。京都府、「天神川環境担当課長」ってポスト置いてる。
そして毎週、現地訪問。めっちゃ労力かけてはる。

で、5年かけたその成果は。
15戸の空家撤去。とりあえず15戸撤去できたのは成果だ。

しかし、住民の移転という結果は出せていない。

 歴史的な経過や居住者の生活基盤の確保という課題もあるため、短期間での解決は困難な面もありますが、引き続き、居住者との意見交換を重ね、協議会の中で対策について協議・協力しながら、関係機関とも十分に連携し所要の対策を進めていくこととしています。


平成27年1月30日公開、平成28年2月29日、平成29年1月20日、平成30年1月30日一部修正)


移転の実現は確かに困難かもしれない。

「今まで大丈夫だったから今後もきっと大丈夫」と根拠なく思ってしまう心理が人間にはある。

それに加え、住民からみて、移転は経済的に負担増になる。

今は建物に対する固定資産税しか支払っていないと思われるが、どこか賃貸住宅に転居するなら毎月、賃料が発生することになる。それよりは、「できればこのままここに住み続けたい」という心情は理解できる。
なお、他の地域に住宅を建てることができるだけの資力を持った住人はもう転居しているのではないかと推測する。

更に疑問が生じる。

住居の撤去費用負担は住民なのだろうか。

これまでの空家撤去は、おそらく行政代執行なのだろうと思うが、撤去費用を建物の所有者に請求したりしたのだろうか。

そして今後、住民が転居する場合、ダム内空家の撤去費用は通常は住民負担だと思われるが、その条件がネックになって転居しない場合がありそうだ。
もしも「転居後の空家撤去費用は自治体が負担する」とする、あるいはしているのなら、どのように理屈をつけて実現しているのだろう。

もし「解体費用は住民負担」であれば、むしろ水害で全壊か半壊すれば公費解体になるので「いっそ水害で全半壊するタイミング待ちする?」と住民も担当者も内心思っているかもしれない。
ただ、全半壊時に死傷者がでない確証がないのが難点だ。

もしくはケリをつけるタイミングはその住宅に住んでいない相続人への相続発生時かもしれない。相続放棄からの公費解体というシナリオを考えているかもしれない。


もしも住民が強くここに住み続けることを希望する高齢者ばかりだとすれば、「気長に解決していく」というのは現実的な最適解かもしれない。
高齢者にとって、転居は大きなストレスだ。

しかし家族に未成年者がいるようならばちょっと逡巡する。子どもは生まれる場所を選べない。
子どもはもっと安全な場所に住む権利があるんじゃなかろうか。

とりあえず、解決するまでこの地域に大きな水害に発生しないよう祈るばかりだ。