熊本地震、公費解体と仮設住宅

2016年4月14日および16日 熊本地震発生。

住家被害:全壊 8,668棟、半壊 34,733棟 全壊半壊合計43,401棟
(出典:2018年6月14日「熊本県熊本地方を震源とする地震(第116報)」消防庁
http://www.fdma.go.jp/bn/2e4f02a91243d041ce4517289a79568af6e3d1b1.pdf

この全壊、半壊棟数は、実際の被害より多少は「盛られてる」だろうな、とは思う。

全壊、大規模半壊、半壊の認定は、支援金、地震保険金などなどの受取額に影響する。

一方的に認定を受け入れるのではなくて、合理的な主張をした結果、全壊、半壊の認定を得たケースもあろう。

しかし、それだけではあるまい。
何といっても、半壊以上であれば公費解体ができる。これは非常に大きい。
「大人の事情」で全壊、半壊認定をもぎとったケースもそれなりにあるだろう。ある程度、それは仕方のない部分だ。

で、公費解体である。一体、何棟が公費解体されたのか。

2018年3月末時点公費解体棟数 35,639棟(申請残棟数37棟)。
ただし、熊本市については、棟数ではなく申請件数で計上していることから、実際の解体棟数はもっと多い。
(出典:2018年4月13日「平成28年熊本地震 災害廃棄物処理等の進捗状況について」熊本県庁)
http://www.pref.kumamoto.jp/common/UploadFileOutput.ashx?c_id=3&id=23963&sub_id=1&flid=150742

ここは熊本。敷地の広い家もある。1申請で2棟解体(別棟もあるケース)も珍しくないことを考えれば、全壊はもとより半壊以上であれば、ほぼ公費解体していると言えそうだ。

全壊・半壊した住宅は古い家(1981年以前築、2000年以前築)が多かった。
1981年、2000年の建築基準法改正は伊達や酔狂ではない。
住宅性能は、概ね新しい住宅ほど優れている。住宅建築の技術はここ数十年、安全性も快適性も進化が著しい。
資力に余裕があるなら、この際、古い家は解体してしまって新しい家を建てた方がよい。それでヘーベルハウス住友林業のようなしっかりした家が建てられるならそれに越したことはない。

でも、個々の事情を勘案した時、解体より修繕した方が合理的だったケースもありそうだ。
例えば、「年金暮らしの高齢世帯で新築する費用の捻出は無理だが、修繕費用ならなんとかなった」という場合、解体して賃貸等に転居するより修繕の方がベターだった場合もあるだろう。高齢者の中には、住環境を変えることがとんでもなくストレスになる人もいる。

でも、「公費で(タダで)解体できるなら、とりあえず解体してしまえ。周囲もみんな公費解体してるし」と勢いで公費解体を申請した世帯も多々あったかもしれない。

知りたいのは2点だ。

1.公費解体した世帯のその後の住まいの変化

世帯主年齢と世帯人数毎に、住環境がどのように変化したのだろうか。
パターンとしては次の5つだろう。

(1)解体後、住宅を新築
(2)新たに購入した住宅(新築または中古)へ転居
(3)賃貸住宅へ転居
(4)災害公営住宅へ転居
(5)老人ホームなどの施設へ入居

それぞれ、新しい住居への入居開始はいつだったのかも興味ある点だ。
つまりそれは新しい生活がスタートするまでどのくらいの期間がかかったのか、ということになる。

2.半壊以上で修繕を選択した棟数と個々のケースの詳細

修繕を選んだ理由と、どのような破損状態で、どのような修繕を行ない、それにはいくらかかったのか。

「半壊で修繕」という選択肢の可能性について、実例参考資料があったら、今後、必ず生じる同じような震災の被災者にとって有意義なのではないか。

★★★

全壊・半壊で解体した人たちの多くは仮設住宅を利用しただろう。
何世帯が仮設住宅の制度を利用したのかはちょっとわからなかった。

ただ、熊本地震仮設住宅入居者のピークは2017年5月だった。
2017年5月の入居状況は以下のとおりである。

建設型仮設住宅 4,139戸(10,812名)
借上型仮設住宅 15,051戸(34,699名)
公営住宅等 1,065戸(2,289名)
合計 20,255戸(47,800名)

(出典:「応急仮設住宅等の入居状況の推移」熊本県
http://www.pref.kumamoto.jp/kiji_23963.html

全壊・半壊で公費解体したケースで、仮設住宅利用という過程を経なかった場合があるかどうかは分からないが、1年後にはもう新しい住居に住み始めているケースもかなりありそうだ。

なお、建設型仮設住宅4,303戸の整備が完了したのは2016年11月だ。地震発生から半年が経過している。それまで避難所暮らしだった人もいるのだろうか。
今回主流だった借上型なら、もっと早期に避難所を抜け出せると思うのだけれども。

ちなみに国土交通省は、「被災者が「借上仮設」を希望する場合や自宅の応急修理により住宅確保ができる場合は、それらを優先すべき」(「応急仮設住宅建設必携」P. 10)としている。

仮設住宅の最長入居期間は原則2年。恐らく今回の熊本地震も期間延長となるケースがそれなりにでるだろうが、基本的に仮設住宅入居期間は長期にならない方がいい。

地震からちょうど2年が経過した2018年4月時点の仮設住宅の入居状況をみてみる。

15,796戸、35,690名。

こんなものだろうと思う。大きな理由は2つ考えられる。

理由1)賃貸予定者は、期限ぎりぎりまで、家賃がかからない借上仮設の制度を利用するだろうため。

自分が「今後は賃貸にする。なんなら今の借上仮設にこのまま住み続けようと思う」という場合、絶対、期限ぎりぎりまで借上仮設の制度を利用すると思う。
今後、契約日から2年の期限の来た借上型仮設住宅が順次終了していくと予想する。

理由2)自宅の新築、公営住宅の完成が間に合わないため。

例えば、マンションを解体して建て替えることにした上熊本ハイツの竣工予定は2020年夏である。
マンションはことのほか時間がかかるにしても、新築ラッシュが起こっている被災地では順番待ちの状況になってるだろう。

また、完成予定時期が2018年5月時点で明らかになっていない災害公営住宅が多い。
すべての災害公営住宅が完成するのはいつになるのか。
最終的に、何戸整備されるのか今後も注視したい。

参考:災害公営住宅の整備について(熊本県
http://www.pref.kumamoto.jp/kiji_19145.html

やはり、国土交通省の提唱するように「応急仮設住宅と復興公営住宅等の恒久住宅の建設を同時並行で進める」ことにすればもっと早期に仮設から抜けて生活再建をすることができていいのではないか、と強く思う。



【参考】
「応急仮設住宅制度の現状と課題」国立国会図書館 調査及び立法考査局 福田健志
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10358943

2012年5月「応急仮設住宅建設必携 中間とりまとめ」国土交通省住宅局住宅生産課
http://www.mlit.go.jp/common/000211741.pdf