N響の国粋主義疑惑

日本で最も有名なオーケストラといえば、間違いなくNHK交響楽団だ。

日本にプロオーケストラは30以上あるが、N響とはあまりに実力格差がありすぎて、聴いて愕然とするオケが多い。しかし、それも無理もない。

プロオーケストラの経営状況はどこも厳しい。
自治体や支援企業の補助金や寄付の削減で、財政難、果ては存亡の危機など日常茶飯事だ。

当然、そうしたオケで団員の給料が高いわけがない。プロオケの、中堅団員の年収が300万円、400万円ということも珍しくない。

そんな中、断トツの安定と、給料の高さを誇るのがNHK交響楽団である。
なにしろ、天下のNHKが擁するオーケストラである。ここ数十年、深刻な経営危機とは無縁だし、団員の給与レベルもNHK職員準拠と聞く。当然、オケ界において、断トツの好待遇となる。

だから、他オケの団員がオーディションに受かってN響に移籍すれば、年収が一気に2倍以上になることも珍しくないという。

誰だって、経営が危うくて安月給のオケより、抜群の安定と給料レベルを誇るN響に入りたい。
というわけで、N響が優秀な演奏家を集めて日本のトップブランドとして君臨するのは当然のことである。

とはいえ、もちろん、他オケを聴いて、「この演奏、こないだのN響の同演目の演奏より確実に上だ」と思うことも、「技術面はさておき、やっぱこのオケ、雰囲気が楽しくて好きだわ。N響より好きかも」とか思うことも多々ある。多様なオケがあることは、とても大切なことだ。

しかし、N響、前々から気になっていたことがある。

NHK交響楽団のオケ団員、見事に「ザ・日本人」な名前のメンバーしかいないのだ。(2015年11月現在)

NHK交響楽団 オーケストラメンバー
http://www.nhkso.or.jp/about/orchestra_members.php

私は、プロオケは、(演奏の質を追求するという意味での)「芸術至上主義」であって欲しいと思う。そして、そうであれば、当然の帰結として、採用は能力主義になる。
能力主義に徹したら、「ザ・日本人」な名前オンリーにはならないのではなかろうか。

N響に関する疑惑。

もしかして、N響は、金さんとか鄭さんとかスミスさんとか「ザ・日本人」でない名前の人は不採用にする、国粋主義基準があるのではなかろうか。

戦時中、ベルリン・フィルは、メンバーを「アーリア系男性」に限った。

日本も、昭和までの時代においては、「日本には、日本人だけで立派に演奏できるオケがある」、すなわち「日本は文化的な国だ(だから対等な国であると認めろ)」ということをアメリカやヨーロッパに誇示するために、N響のメンバーを純日本人に限る「純日本人主義」をとった歴史があるかもしれない。

しかし、21世紀の今日においては、「国際化」、「多様性の受容」が「政治的な正義」だろう。

N響のあのメンバー表は「政治的にも正しくない」と思うのだが。

100歩譲って、仮に、「日本国民の雇用対策、失業者対策に資するため」、団員について「日本国籍を持つ者に限る」のであれば、そう明記しないと、受験者が無駄足を踏むことになるのだが。