電子書籍の価格設定

電子書籍が面白い。
正確には、電子書籍の価格設定がとても興味深い。


何しろ電子書籍は自由に価格設定ができる。Kindleでは日替わりセールにジャンル限定セール、ポイント還元セールなど、様々なセールを行っている。
Amazonは今、どのような属性の書籍が、いくらで、どのタイミングで売れるのか、膨大な経験とデータを蓄積しつつある。
そして、その実験はとても楽しいだろう。

今、「書籍はいくらで販売されるべきか」が改めて課題となっているのではなかろうか。


普通に考えて、紙書籍より電子書籍の方が断然安く価格設定できるはずだ。
何しろ電子書籍は、印刷代、書店への輸送代、倉庫保管代がかからない。管理コストは相当低減されるはずだ。

紙書籍の問題点を挙げよう。

問題点1)返品率がバカ高い。

書店から出版元への返品率約40%。ざっくり印刷された書籍の40%が売れずに廃棄されるわけだ。印刷代、紙代、輸送代、管理コスト、廃棄コストの無駄が大きすぎる。
そしてこうした無駄コストは当然書籍価格に織り込まれている。

問題点2)古本市場での利益は、著者や出版元に全く還元されない。

古本で書籍を購入した場合、購入代金は作り手たる著者や出版元にまったく還元されない。
折角印刷された書籍が1人にしか読まれないでその寿命が終わるのはあまりに惜しい。多くの人に読まれた方がいいに決まっている。そのためにも古本市場はあるべきだ。しかし。古本の購入代金が全く作り手、つまり次の作品の原資として還元されないのは大問題だ。それって「経済が上手くまわってない」のではなかろうか。

電子書籍は、この2つの問題点をいとも軽々とクリアする。

電子書籍ならば返品は発生しない。返品で発生するコスト分、安くできるはず。ざっくり3〜4割安くできるのではないか。


電子書籍に古本はない。今までの古本購入者は、電子書籍市場では「セールを執念深く待って購入する人たち」になるだろう。そして、著者や出版社は、今まで完全にロスしていた利益が手に入ることになる。

というわけで、電子書籍は紙書籍より格段に安くなるべきはずだ。

今後、書籍の価格設定はどうなるか。

・著者、編集者への配分は今より多くなるといい(←要望)。

多様でクオリティの高い書籍が沢山生まれるには、それが必要な条件だろう。
例えばノンフィクションライターなど、取材費がかかるにもかかわらず、そんなに部数が売れるわけではない。でも、絶対的に社会に必要な存在だ。
ライターという職業が無理なく生計が成り立つよう報酬が上がるといい。しかしながら、なんらかの規制(ルール設定)や仕組みがないと、恐らく報酬はとどまるところなく暴落してプロの書き手が消滅する可能性がある。書き手の育成と、それほど部数が売れないが社会的に存在意義ある書き手の報酬確保の仕組みづくりは超重要だろう。
ベストセラー作家しか残らないのでは、多様性に欠けて、長期的には出版市場自体が先細る。

・本の価格は変動する。

恐らく、新刊は発売から一定期間は高めな価格設定で作成費用を早期回収し、一定期間経過後は安くなるとかセールがかかるようになるだろう。
現在、まず単価の高い単行本で出版して費用を回収し、その後文庫本を発売するのと同じ構造だ。
個人的大問題は、現在、ブックオフでは一定期間売れなかった単行本を100円で売っているが、そこまでセールするかどうかだ。多分、そこまで安くならない書籍が多いだろう、と思う。
そう思うと電子書籍は必ずしも財布に優しくないかもしれない。


しかし、電子書籍は、確実にパラダイムシフトを起こす。

電子書籍が合理的な価格となるのはいつのことか。
現在の紙書籍に引っ張られた電子書籍の価格設定は大いに不満だ。

出版社に言いたい。

「紙書籍が大判だろうが、凝った印刷だろうが、高級な紙を使っていようが、電子書籍には何の関係もないんで」

とりあえず、そこ、よろしくお願いしたい。