被害者を責めることの罪深さ

自分が加害者だと分かっていない加害者というのが存在する。明治大学クライス事件は、いわゆるセカンドレイプの酷さに暗澹とさせられた。

明治大学クライス事件概要】
2014年6月20日 新宿 元コマ劇場前で女子学生ばかり10名程度が昏倒。昏倒していたのは明治大学日本女子大学の公認テニスサークル、クライスの1年女子学生。
この日はクライスの1年女子と2,3,4年の男子の飲み会だった。


ポイントは以下の点だ。
大学1年といえば未成年。未成年者に飲酒させてはいけない。まぁ現実にはしているが。しかし、アルコールを強要してはいけないし、更に言えば昏倒させてはいけない。強要や昏倒は完全に傷害罪だ。

この飲み会の幹事や仕切りは成人を含む2,3,4年の男子学生である。新入生と上級生の力関係は明らかだ。この事態は完全に上級生の責任であり、加害者と被害者の構図が明確に成り立っている。

1年の女子学生は、被害者以外の何者でもない。

考えてもみよう。
彼女らはほんの数か月前まで高校生だった。大学のサークルや飲み会がどんなものか、彼らは知らない。所属するサークルの飲み会などで「こういうものか」と学ぶのだ。

大学時代を振り返ろう。多くの人は、大学入学当初はコールだの一気飲みだのに迎合してそこに何らかの面白さや価値を見出そうとしなかったか。
とりあえず新参者は新しい環境にあわせようとする。それは自然なことだ。周りを囲む先輩たちが一気飲みなどをするのが当然という雰囲気をつくってしまえば、まずそれに抗うことは不可能だ。そして飲み会とはこうしたものと思ってしまう。

更に。今回は通常の酒以外に何らか混入したものを飲ませたことはほぼ確実だ。

彼女たちは昏倒させられた被害者である。被害者の姿がみっともなかったのは事実だ。しかしそれは被害者の責任ではない。

★★★

この事件が注目されるのは、こんな昏倒騒ぎがなければ、恐らくこの先にスーフリ事件のような性犯罪があっただろうと推測されるところにもある。

スーフリ事件では、被害者は数百人にのぼることは確実なのに起訴された事件は3件のみだった。さらに、スーフリ事件以前から「輪姦が活発に行われていた」という明治大学のサークル「サイドキックス」では告訴された事件は恐らくなかった(あったら大きく報道されているはずだ)。

性犯罪は暗数の大きい犯罪と言われる。このスーフリ事件周辺で見る限り、告訴は1%以下と推測される。これ、法治国家が機能しているといえる状態なのか。

なぜ性犯罪はこれほど告訴されにくいのか。

今回の明治大学クライス事件で、その理由の一つがよくわかった。

周囲から、被害者を貶めるような発言や、被害者に落ち度や非を求める発言されるような状況では被害者は沈黙せざるをえない。

1.例えば曰く「未成年にもかかわらず飲酒した被害者も悪い。」

いや、責任は「未成年者を監督しているもの」にありますから。この場合はクライスの上級生であり飲み会の幹事だろう。

未成年者飲酒禁止法第3条 2
未成年者の飲酒を知って制止しなかった親権者や監督代行者に対して、科料を科す

というか、あれは完全に「昏倒させられている」。飲み会の構成をみたら「被害者(1年女子)VS加害者(2,3,4年男子)」としか思えない。

2.例えば曰く「このようなサークルの飲み会に、まともな学生なら行かない」

なぜこんな理不尽に被害者を貶める発言ができるのか。
クライスは明治大学日本女子大学の公認サークルである。普通、まさか公認サークルが犯罪行為を行う集団とは思わない。

大体、女子学生は自分が被害にあって初めて犯罪行為に気が付く場合が多いのだろう。
まだ6月である。自身の大学1年の6月をふりかえってみよう。まだまだサークルの全容などみえてない。少なくとも私はみえていなかった。6月時点では、仮に所属するサークルが犯罪行為を行っていたとしても気づけなかっただろうと思う。また、犯罪行為に薄々気づいたりしても「そんなことあるわけない」と思ってしまうのはごくごく普通ではないか(あとから思えば、あの時はっきり分かったはず…とか悔やむのはよくある話だ)。

更に言えば、犯罪行為にあって思考停止してしまい何度も同じ犯罪被害にあう、というのも別に珍しいことではない。「なぜ気が付かなかった」「なぜ逃げなかった」「まともなら気づくだろう。逃げるだはずだ」などというのはあまりにも勝手で傲慢な発言である。

事件発覚後に、まともな学生うんぬんなどと発言するのは卑劣ですらある。

「飲みサークル」だったから参加すべきではなかった、とするのも無理がある。飲みサークルとは、犯罪行為を行う団体であるという認識は世間一般にない。少なくとも私は聞いたことがない。
というか、もしも「このサークルは犯罪行為してる」というのが周知だとしたら、それを放置していた大学やその大学の学生にも責任があるだろう。

今まで大学側にクライスに関するクレームや告発はなかったのか。また、サークルなどに関する告発受付体制はあったのか。大学の公認はサークルに信用を与える。公認サークルの品質管理について大学にも責任がある。


3.例えば曰く「女子学生が無防備だった」

「無防備」ってなんだ。
悪いのは犯罪行為を行った加害者である。なぜ被害者に落ち度だの非を求めるのか。

スーフリの被害者にも、クライスの被害者にも言いたい。

「あなたはなにもわるくない」

そして、被害者を貶めたり被害者に落ち度だの非を求める発言をする人に言いたい。

ただでさえ被害者は自分を責める。それに加えて周囲が被害者を非難するなら、そりゃ性犯罪なんて告訴したり出来なくなる。被害者を安易に非難すると被害者は被害を訴え出ることができなくなる。

被害者が訴えなければ加害者は犯罪を続行する。そして被害者は増えていく。また「被害者に落ち度が」といった発言が加害者を正当化し犯罪を加速させる。

被害者を理不尽に貶めたり非難したり、沈黙させるような発言をする人は、まさに性犯罪を幇助している。

どうかそれを自覚して欲しい。


<お奨めサイト>
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