ありふれた政治手法としての部落差別

「部落差別なんて、そのうち忘れ去られて無くなるのだから、いわゆる同和教育は必要ない」と考える人は多い。私はそうは思わない。
「部落差別」は2つの点から、「是非とも学ぶべきテーマ」かつ「検証しなければ非常にもったいないテーマ」だと思っている。
2つの観点とは何か。
「ありふれた(低レベルの)政治手法としての部落差別」と「貧困対策としての同和政策の検証」だ

ここでは「ありふれた政治手法としての部落差別」について書こう。

以下は私が中学の授業で習った内容である。
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江戸時代、幕府は士農工商の下に穢多(エタ)・非人という階級を設けた。それは以下の政治的な意図に基づく。
「百姓は生かさず殺さず」(By徳川家康)という言葉に端的に表されるように、為政者からみて農民は搾取の対象であった。どう考えても不当に搾取しまくりの武士という支配者階級(人口の1割程度)に、人口の大部分を占める農民(人口の8割程度?)の不満が向かないように、穢多・非人(穢(けがれ)が多い、人に非ずという、という名前からしてどうかしている)被差別階級がつくられた。
為政者による「ほれ、お前ら水のみ百姓より悲惨な境遇の奴らがいるだろ。お前らの境遇は恵まれてるやないかい(過剰な搾取も我慢せい)」という目くらましであり、また、「俺ら(支配階級)に逆らったら、あの悲惨な境遇に落としてやるぞ」という脅しでもあった。

被差別部落とはつまり、人口の大多数を占める被支配階級のガス抜きのために人為的につくられた見せしめ的立場にあった人たちの集落である。なお、差別強化のためにあえて様々な悲惨を背負わされたりもしている。
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この政治手法は、日本独自のものではない。明らかにヒンズー教がルーツだろう。
ヒンズー教の大きな特徴はカースト制だ。生まれながらに階級と職業が固定される。さらにカースト外の不可触民が存在する。
私はヒンズー教に対し、「快楽を全面に押し出したおもしろ教」という印象を持っている。しかし、残念なことに、快楽には「差別する快楽」も含んでいるのだろう。
ヒンズー教は今でも、例えばインドでは人口の8割以上、8億人以上が信仰するメジャーな宗教だ。職場や地域で国際化が進んでいる中で、カーストにもとづく差別に直面する可能性はある。


★★★

ヒンズー教との関連は特になくとも、ある集団にレッテルを貼り、迫害の対象とする政治手法はたびたびとられている。すぐに思いつくものとしては、ドイツのナチスや中国の文化大革命があるだろう。どんな属性を持つ人々が差別の対象となったのか。

ナチスによるユダヤ人差別

実はナチスが迫害したのはユダヤ人だけではない。ロマ(ジプシー)、同性愛者なども迫害の対象であった。

文化大革命

文化大革命は明らかに毛沢東の政敵つぶし作戦だった。その意味で、誰がいつ「人民の敵」とレッテルを貼られて追放、投獄、殺害されるかわからない状態であった。
文化大革命でのよく知られた迫害対象としては、知識階級、旧地主階級、少数民族などがある。


様々な属性が被差別者の根拠となりうる。
どんな属性が被差別者としての烙印になるか分からない。
また、どんな属性を持っているか必ずしも本人が知っているわけではない。

どこで読んだか忘れたのだが、ニューヨークで成功しているユダヤ系のビジネスマン(自信に満ちて傲慢でさえあるパーソナリティ)の告白としてこんな内容を読んだ記憶がある。
「いつか突然、今持っている社会的ステータスをはく奪され、身体を拘束されて、もしかしたら命さえ奪われるかもしれないという恐怖が常に心の底にあるんだ」。

ナチスの凄まじい迫害は、個々人のレベルでも相当なトラウマを残しているのだな、と初めて気が付いた。自分の親戚や知り合いが殺されていたりすればなおさらだ。
しかし、この恐怖は、他人事なのだろうか。

ナチスによりユダヤ人として迫害された人の中には、周囲も本人もユダヤ人という自覚は全くなかったにもかかわらず、ある日突然烙印を押された人もいたし、もっと言えば「(誰々はユダヤ人であるという)ねつ造」も可能だろう。

迫害の恐怖はすべての人にとって無縁ではない。

差別される人間の悲惨が為政者への恐怖を生み、恐怖による不合理な支配が実現する。その時、利用されるのは「差別する側の(野蛮な)快楽」だ。

この構造を知った上で、差別を肯定し、差別に狂乱することができようか。知識は不合理な差別に対する防波堤になる。

<関連記事>
2013年7月8日 部落差別というものを初めて怖いと思った

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部落差別問題について、この2冊が「なるほど!」という発見や納得があって、しかも読みやすかった。

郄山文彦/組坂繁之「対論 部落問題」

対論 部落問題 (平凡社新書)

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角岡伸彦被差別部落の青春」

被差別部落の青春 (講談社文庫)

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