カルロ・ドルチ「悲しみの聖母」
国立西洋美術館で一番人気の美女である。
1998年の購入なので、意外にも新顔である。
国立西洋美術館といえば松方コレクションを連想するが、近年購入された作品にも魅力的な作品がたくさんあるのだ。
◆カルロ・ドルチ「悲しみの聖母」1655年頃
ほのかな光背、慎ましく甘やかな美しさを湛えた伏し目がちな俯いた横顔、組まれた手。
文句なしに美しい聖母だ。
しかしながら、なんといっても目を奪われるのは聖母のマントの艶やかな青だ。
聖母マリアのマントにウルトラマリンブルーを使うのは定番なのだが、これほど青が艶やかに美しい絵は滅多にない。
天然ウルトラマリンブルーは多分、精製や使用時にも高度な技術が必要なのだろう。
青い布のドレープ感がまた見事だ。
この絵の主役はこのラピスラズリの青の美しさだと思う。
ウルトラマリンブルーの美しさを存分に堪能する、そんな絵だ。
ラピスラズリの青は、フェルメールの絵によく使われていることから「フェルメール・ブルー」と呼ばれることがあるが、青の美しさという見地からは私はドルチの方が上手(うわて)なんじゃなかろうかと思っている。
私としては「ドルチ・ブルー」だ。