犯人は、海苔

2017年2月、立川の小学校で1098人もの患者を出す食中毒が発生した。
うち入院した人は9名。なかなかハードな食中毒だったようだ。
2月24日の東京都福祉局の発表によると、「患者は2月17日(金曜)午前1時00分から、おう吐、下痢、発熱等の症状を呈していた」という。

ちなみに16日の給食メニューはこちらである。

【2月16日(木曜)の給食】
親子丼、うど入りすまし汁、伊予かん、牛乳

ノロウイルスによる食中毒であることは判明した。
しかし、ノロウイルスの食中毒の場合、原因料理や食材が判明することの方がまれだ。
厚生労働省「食中毒統計資料」をみてみると、2000年から2016年の間にノロウイルスによる食中毒は4560件起こっているが、うち2497件は「原因食品不明」である。


厚生労働省「食中毒統計資料」
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite

多分、ノロウイルスは感染者が調理することで混入することが多いのだろう。
調理過程で混入するのなら、「何の食材を使ったどんな料理だったか」より「誰が料理したか(誰が感染者だったのか)」の方が問題になる。

というわけで、このノロウイルスの集団食中毒、普通に調理場(作業者のトイレ環境含む)の衛生状況を疑った。

ところが、である。

2月28日に東京都が発表した原因に愕然とした。

なんと、犯人は刻み海苔。


「親子丼に「キザミのり」が使用されており、仕入れ先に保管されていた同じ賞味期限の未開封製品15検体のうち、4検体からノロウイルスを検出しました」

しかも。

「当該「キザミのり」及び患者7名のふん便並びに1名の吐物から検出したノロウイルスの遺伝子配列検査を実施したところ、一致しました。」

ぐうの音も出ない真犯人確定ぶりである。

「まさかこいつが犯人とは夢にも思わなかったぜ」

近年読んだどんな推理小説よりも驚愕天地の意外な犯人である。

開封の刻み海苔が既にノロウイルスに汚染されていたとは。
給食調理現場は完全に無罪。落ち度はなかったのである。

実は2017年1月、和歌山県御坊市でも学校給食で食中毒が発生している。
患者総数804人というこれまた大規模な集団食中毒だ。

この食中毒、1月25日の給食に出された「磯和え」が犯人、というところまでは分かったが、それ以上は不明だった。

立川の結果を受けて、調査した結果、和歌山でも同じ刻み海苔が犯人であることが判明した。

これは本当にすごい快挙だと私は思うのである。
判明しなかったら、給食センターの運営会社は長く冤罪による不利益を被っただろう。

立川で、この未開封の海苔を調べた名探偵は誰なのだろう。

もしも私が調査担当者だとして、未開封の刻み海苔を調べようという発想が浮かばない可能性が高いと思うのだ。
実際、和歌山では刻み海苔の未開封パックは調査されなかった。

ちなみに、この海苔の製造会社は「東海屋」となっているが、感染源はこの東海屋から製造委託された「いそ小判海苔本舗」の高齢の社長だった。

ノロウイルスに感染して症状もあったのに、素手で海苔をつかんで作業したという。
相当に衛生感覚が緩そうな印象を受ける御仁であった。トイレ後、手洗いもろくにしてないのではないかと疑ってしまうような。

大体、大阪市がいそ小判を調査したのは3月4日のことである。3月時点でもトイレ周辺、のり裁断機からノロウイルス検出できるというのがある意味すごい。

この「いそ小判集団食中毒事件」、「遺伝子型が一致するノロウイルスの検出」でここまで追えるという現代の探偵劇のようで忘れられない。


【参考】
東京都報道発表資料
2017年2月24日「食中毒の発生についてー立川市立小学校における給食による食中毒」
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/02/27/08.html

2017年2月28日「立川市立小学校における給食による食中毒(第2報)―食材の検査結果が判明しました」
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/02/28/11.html

2017年3月3日「食中毒の発生についてー小平市立小学校における給食に使用された「キザミのり」による食中毒」
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/03/03/08.html


2017年3月22日「のりからノロ、「当社が原因だとは夢にも…」田中健二氏[東海屋社長](日経ビジネス
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/279177/032100018/?P=1

2017年3月1日「東京と和歌山の食中毒2千人 原因は同じ焼きのり」朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASK312HSKK31UBQU005.html

「きざみのり」が使用されたノロウイルス食中毒事例について
http://www.pref.aichi.jp/uploaded/life/158557_244732_misc.pdf