シフォンケーキ

シフォンケーキとは難儀な食べ物だ。

初めてシフォンケーキなるものを食べたのは、銀座だった。絹のようになめらかで繊細で、「なるほど、確かにこれは“シフォン”ケーキだ」と感動した。
今までに食べたことのある、シフォンケーキを自称するぼそぼそした代物とは全く別物だった。

それからほどなく下北沢でシフォンケーキの美味しい店を発見した。その店は下北沢にしては目立たない落ち着いた店で、私はこの店が好きだった。なにより「シフォンケーキ、大き目で」などという定食屋のようなオーダーが出来たのも魅力だった。

そして下北沢の店に慣れてしまうと、恐ろしいことに最初の銀座の店のシフォンケーキに満足できなくなる。銀座の店に行ってもつい「下北沢のシフォンケーキの方が美味しい」と思ってしまう。

それから幾年月。
巷で美味しいシフォンケーキに出会うことは珍しいことではなくなった。それでも私の中で下北沢の店の優位はゆるがなかった。

しかし、ある日、また別の店のシフォンケーキに瞠目する。
そこはシフォンケーキの専門店だった。そしてその出会いのあとでは、今度は下北沢の店で満足できなくなってしまう。下北沢の店に行ってもつい「あっちの店のシフォンケーキの方が美味しい」と思ってしまう。


例えばモンブランならば、アンジェリーナのモンブランも美味しいが、このレストランのモンブランも美味しい。というように、多様なモンブランのそれぞれの美味しさを楽しむことができる。
アップルパイなども同じだ。このアップルパイもありだし、あのアップルパイもありで「あれもこれも好き」と思うことができる。

しかしシフォンケーキは違う。

銀座の店より下北沢、それよりも更にあの店の…。と、AよりBが、BよりCが、という関係なのだ。
なんと難儀な。

今、私が最も美味しいと思うシフォンケーキの名店はここだ。

「ラ・ファミーユLa Famille」@池袋
http://www.la-famille.com/

このお店の素晴らしいところはレシピを公開し、教室も開いて、惜しげなくシフォンケーキの普及と向上に努めているところだ。
個人的願望を言えば、わざわざ池袋に行かなくとも近所で「ラ・ファミーユ」伝来のシフォンケーキを頂けたらとても嬉しい。

そしてまた、普及の中で更にまたシフォンケーキの発展があったりするのかもしれない。

いつの日かまた、驚くような出会いがあったりするのだろうか。