オリンパスがどうかしている

オリンパスが常軌を逸している。

今更「飛ばし」発覚というのには驚いたが、「飛ばし」の全体図や不正な会計処理の技術等々は解説されてもよく解らないし特に興味も持てない人も多いだろう。

しかし別に専門知識など全くなくても、オリンパスの異常さは誰でも解るレベルなのだ。

問題の焦点の1つに新事業3社の買収がある。この3社のうちの1社、ヒューマラボに注目してみよう。

【主な買収理由】
がん免疫力を高める健康事業を展開。内視鏡での診断・治療でがん撲滅を目標とする当社にとって、サプリメントの切り口からアプローチできると期待し、有望と判断。

内視鏡サプリメント、同列ですか。

【主な事業と特徴】
・がん細胞増殖抑制など免疫力を高める健康食品、化粧品など提供
・強み:シイタケ菌糸体を培養し、特許技術で有用な成分を豊富に含んで抽出したエキス「コアレム」の研究開発
【今後の展開】
コアレムの成分を化粧品に配合し、消費者への浸透を推進

「がん細胞増殖抑制など免疫力を高める化粧品」とはすごい。前代未聞の独創的発想に絶句する他ない。

EBM(Evidence-based medicine :根拠に基づいた医療を!)などという概念はオリンパスにはまだ伝来していないらしい。私が医療関係者なら、いかに適正で効果的な医療を実現するかという医療関係者(行政を含む)の日々の地道でまじめな取り組みを真っ向否定するような企業とは取引したくないところだ。

そしてこのヒューマラボのホームページをみてみると、販売しているサプリメントがまたすごい。
http://www.corelem.jp/

シイタケとオリゴ糖と乳酸菌で、1袋(3g)あたりなんと1,166円。

まともな会社が売る商品ではない。

化粧品部門もみてみよう。
http://age-less.jp/index.html

オリンパスがヒューマラボの今後の展開として「コアレムの成分を化粧品に配合し、消費者への浸透を推進」と発表しているが、今販売している化粧品の説明ではそれらしい記載は確認できない。しかしまさか当該発表時点で開発にも取り組んでないというわけはあるまい。

STEP01 | 100を超えるスキンケアアイデアを約1000人の消費者に見ていただき、90%以上の方に支持されたアイデアをもとに開発をスタートします。
(ヒューマラボHP 「アージェスのこだわり」 http://age-less.jp/aboutbrand.html

ほう。つまり「シイタケ配合でがん細胞増殖抑制など免疫力を高める化粧品」というアイデアを900人以上の消費者が支持したとおっしゃっているわけだ。本当ですか。

これがオリンパスは2013年3月期には269億円売り上げる見通しで買収したヒューマラボの有様である。
もっとも2012年3月期の売り上げ目標は22億円となっている。というか、ぼったくりサプリやらを22億円分も売る気なのか。

2008年のヒューマラボの買収総額は231億9900万円。
2009年3月には早くも183億700万円の減損処理。

理由:リーマンショック等により外部環境が悪化したことを考慮し、保守的に減損処理を行ったものです。

メキシコのタコス屋が「東日本大震災の影響により閉店します」と言っているくらい意味がわからない。

こんな買収・処理を承認した取締役、疑義を申し立てなかった取締役が善管注意義務違反を問われないのなら、取締役とは、とことん無責任で無能でよいということになる。

「飛ばし」の全体図は分からなくても、オリンパスのIR資料には「あからさまにおかしい」と誰でも指摘できる案件がてんこ盛りで、ある意味、一見の価値がある。
http://www.olympus.co.jp/jp/corc/ir/

特に適時開示情報はほとんどお笑いネタだ。
http://www.olympus.co.jp/jp/corc/ir/data/tes/2011/

これらを見てオリンパスの株式に投資をする者は大ばか者といって差し支えあるまい。

2011年11月10日、個人株主からオリンパス監査役宛てに提訴請求がなされている。

本提訴請求では、平成18年以降在任した、又は在任する一部の取締役21名について、Gyrus Group PLC買収におけるアドバイザーへの支払いならびに株式会社アルティス、NEWS CHEF株式会社および株式会社ヒューマラボ買収に関して、当社の調査の上で善管注意義務違反が存在すると判断した際には、総額1,394億1,900万円およびこれに対する遅延損害金の支払いを求める責任追及等の訴えを提起することが請求されております。

実に妥当な請求である。

オリンパスの取締役に対しては特別背任罪を問うべきだ。
また、1000億円以上も悪質な「飛ばし」で不正な会計処理を行なった企業の上場廃止は当然になされるべきことだ。

そうでなければ1997年の山一證券の破綻は何だったのか、コンプライアンスの意味は何なのか、日本はどのような社会を「あるべき社会」としているのか解らなくなってしまう。

内視鏡事業は、折角の収益をアホな買収などにドブ捨てするような企業ではなく、本業にまじめに取り組む企業が携わればもっと安く、かつ総合的な付加価値を高めて医療現場に提供できるはずだ。


<引用出典元>
オリンパス株式会社 一連の報道に対する当社の見解について 2011年10月19日」
http://www.olympus.co.jp/jp/corc/ir/data/tes/2011/pdf/nr20111019.pdf
オリンパスグループ 過去の買収案件に対する追加情報(適時開示参考資料)2011年10月27日」
http://www.olympus.co.jp/jp/corc/ir/data/tes/2011/pdf/nr20111027_2.pdf
オリンパス株式会社 記者会見の発表内容について 2011年10月28日」
http://www.olympus.co.jp/jp/corc/ir/data/tes/2011/pdf/nr20111028.pdf
オリンパス株式会社 株主からの提訴請求について 2011年11月10日」
http://www.olympus.co.jp/jp/corc/ir/data/tes/2011/pdf/nr20111110_2.pdf


<関連記事>
2011年12月23日「オリンパス問題に対する疑問と見解」
2011年12月4日「山一證券破綻の遺産」