ホームドアの安心感

駅のホームで常に意識していること。
「列の先頭(後ろから押されたら絶対ホームから落ちる位置)に並ばない」、「できるだけホームの端は歩かない」。

ホームから落ちるかもしれないし。誰かに突き落とされるかもしれないし。

これ、被害妄想というわけではない。

実際、先頭で電車を待っていて、誰かに背中を押されて転落しかけた経験を持つ知人がいる。これはさすがに珍しい体験だし、聞いていて本当に怖いと思ったが、これだけ多くの人が行き来するホームでは当然に起こりうることだ。

そうした、いわば「殺人未遂」は珍しいとしても、貧血による転落や、酔っ払いの転落はまったく珍しいことではない。ホームから線路に転落したことのある人は何人も知っているし、転落場面を何度か目撃したこともある。

2001年、新大久保駅で、ホームから転落した男性と、男性を助けようと線路に飛び降りたカメラマンと留学生の2人が電車にはねられて亡くなった。やりきれなくも痛ましい事故だったが、「やはり起きたか」とも思った。

新大久保の事故のほんの少し前、ホームから転落した酔っ払いを助けに線路に飛び降りる若いサラリーマンを目撃したばかりだった。
目撃者として断言できるが、あの若者と転落した酔っ払いが無事だったのは、たまたまの幸運でしかない。
「線路に転落した人をみたら、線路に降りて助けるより、ホームの非常ボタンを押そう。それが正解」とどれだけの人が咄嗟に判断できるのか。

新大久保の悲劇は、ホームからの転落が簡単に起こりうる以上、何度でも繰り返されるだろう。
そう諦めていた。

が。時代は進む。

いつの間にか、利用駅にホームドアが完備されていた。

ホームドアのあるホームに立つ安堵感は半端ない。転落の危険から解放されている安心感。これは何にもかえがたい飛躍的なサービス向上だ。

JR山手線は、2016年12月までに、全29駅のうち、東京、新橋、浜松町、渋谷、新宿を除く24駅でホームドアの設置が完了した。


2010年度使用開始:恵比寿駅、目黒駅
2011年度完成:恵比寿駅、目黒駅
2012年度完成:大崎駅、池袋駅
2013年度完成:大塚駅巣鴨駅、駒込駅新大久保駅目白駅高田馬場駅田町駅
2014年度完成:御徒町駅鶯谷駅、田端駅、有楽町駅、原宿駅五反田駅西日暮里駅
2015年度完成:秋葉原駅、代々木駅、上野駅、神田駅、日暮里駅
2016年度使用開始:品川駅

結構、急ピッチですすめられている。

ホームドアを設置したら、転落事故は皆無になったのではないか。

と思っていたら、調査記事があった。

2016年07月27日 「鉄道自殺防ぐ「ホームドア設置」は効果絶大だ 山手線23設置駅の人身事故は「ほぼゼロ」」東洋経済

2016年7月時点で、山手線のホームドア設置駅における設置翌年度以降の人身事故はわずか1件。これは、酒に酔った男性がホームドアに寄り掛かったことによる「ホーム上での接触事故」で、転落事故ではない。
ホームドアにより、転落事故は消滅したのだ。

ただ、ホームドア設置のコストは大きい。山手線24駅のホームドア整備にかかった費用は約500億円と推定されるようだ。1駅あたり20億円強。
コスト的にはなかなか厳しい。

でも、それでも、ホームドア設置はすすめる価値があるだろう。

人身事故は、駅で働く人たちにとってもきつい。
飛び込んでくる人を、なすすべなく轢いてしまう電車運転手。中には飛び込んでくる人と目があってしまうこともある。普通にトラウマ体験だ。

轢死体を事故現場から引上げ、現場の肉片や血の片づけをするのも駅員などの仕事だ。これまた嫌な仕事だ。「できればやりたくない仕事」であることは間違いない。

ホームドア設置で、駅員さんたちがこうした人身事故体験から解放されるなら、その価値はプライスレスだ。

すべての駅にホームドアが設置されたらいいのに。


【参考】
2016年9月6日「JR東、ホームドア3割軽量化 費用も半額」日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ06HOQ_W6A900C1TI1000/