児童虐待と子どもの立場

たびたび父親から暴力をふるわれている少年から話を聞く機会があった。
つくづく子どもというのは弱い立場だと思う。
児童虐待について、気が付いた点を2つ記録しておく。

1.認知バイヤス的にも子どもは家庭内でとても不利な立場
「自分に都合の悪いことは認識しない」とか、「自分に都合のいい言い訳、解釈に固執する」とか、「自分に都合の悪いことは忘れる、記憶を改竄する」とか、そうした傾向は誰にでもある。
家族というのはとても濃厚な利害関係者たちの集まりだ。

父親が少年に暴行を加えて虐待しているケースで考えてみよう。
暴行を受けている少年の側に立ち、父親に「子どもに暴力をふるうべきではない」と毅然と対応できる家族がどれだけいるだろうか。

母親からみれば、夫(少年の父親)は家計の収入源だ。敵に回したら、生活の基盤が失われるリスクがある。また、夫は、親戚、近所付き合いだの、学校行事だの、家事だの、日々の雑事を助けてくれる、円滑な日常生活に必要な存在だ。
そして、子どもは、自分が面倒をみなければならない、手がかかるばかりの存在だ。

さて、どちらの味方をした方が得か。

祖父母からみれば、まず、息子(少年の父親)は孫(少年)より近しい存在だ。孫より息子により愛着がある場合が多いだろう。さらに、息子(少年の父親)から仕送りとかお小遣いをもらっているかもしれない。また、息子(少年の父親)には、入院やら不測の事態になったとき、助けてもらうことも期待しているはずだ。
そして、孫は、少しはかわいいかもしれないが、基本、手がかかるばかりの存在だ。

さて、どちらの味方をした方が得か。

答えは明らかだ。

さらに、虐待を受ける子どもは、何らかの障害があったり、手がかかる子、問題児であるケースも多々ある。
単に親子の相性が悪いケースでも、アルコール依存症など、完全に暴力をふるう側に原因がある場合でも、子どもにいくらでも難癖はつけられる。非のない人間などいないわけだし。

人は無意識に権力者の思考に同調する。

暴行を受ける少年と暴行をふるう父親、どちらの味方をした方が得か、と言ったら、断然父親なのだ。

人は、自ら不利な立場に立つことは無意識に避ける。
ゆえに、子どもは家族内に味方を持つことが難しい。

虐待は、その行為について「否」とジャッジし、子どもの側につく行政などの第三者の介入がないと、解決するのは難しいケースが多いのではないか。


2.子どもに親元から逃げる選択肢が整備されねば、児童虐待は解決しない。
父親は少年にこんな言葉を投げつける。
「誰がお前を養ってると思ってるんだ」。

人として、言ってはいけない言葉がある。これを子どもに言うのは、究極のパワハラだ。

しかしながら、端的にこの言葉が少年の立場を示している。

まず、少年には自分名義のお金がない。そして、児童の労働は原則禁止されている。子どもには、自分名義のお金を持つ方法がない。
例え、自分名義のお金があったとしても、賃貸契約も単独ではできない。

例え一時保護をされても、結局、父親の家に戻され、そこで暮らすしかないとすれば、少年は暴力から逃れることはできない。
学校や警察に届けても、あとで「チクった」として父親から暴力をふるわれるとすれば救われない。

児童相談所などの指導により、親が意識改善をして暴力がなくなる」なんて、非常に困難というケースは多いのではないか。
指導員だって教員だって普通の人間だ。神がかった能力を持つわけではない。「暴力じゃない。しつけだ」、「子どもを殴ることの何が悪いか分からない」という意識の親もいるわけで、そんな親の意識を変えるのは神業のはずだ。

つまり、問題の解決には、「少年が暴力をふるわれるような家に戻らなくてすむ」体制がなければならない。

子どもを暴力から保護するためには、児童相談所児童養護施設あと更には里親制度の整備、充実が不可欠だ。

児童虐待の相談件数は激増している。
2012年で66,701件。そしてこの件数は増え続けるだろう。虐待が増えたのではない。相談が増えているのだと思う。実際、今でも虐待を目の前にみていながら、放置する人が普通にいる。そして、昔の人ほど「よその家の問題」として目をつぶる人が多いように思う。
しかし、これからは「児童虐待は通告しなければいけない」という認識が常識になっていくだろう。

http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/dv/dl/about-01.pdf


相談件数の増加はよいことだ。しかし、対応体制に人も予算も不足していては救われない。

さて、東京の児童相談所にはどのくらい人員がいるのか。常勤職員数500名(出典:東京都児童相談所「事業概要 2014年版」)。
いかにも少ない。

児童養護施設も人手不足、キャパ不足といわれる。

児童福祉にもっと予算と人手を。そここそ税金の使いどころだ。


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2016年1月17日「ある児童虐待遭遇の記録」