犬島精錬所美術館

日本には、北海道から九州まで、炭鉱跡などの産業遺産が数多くある。もとより、そうした産業遺産のかっこよさも美しさも知っていた。
しかし、そこにあるのは静かな美だ。産業遺産が積極的に人を呼ぶ観光地になることは難しいと思っていた。

いやいや。
ベネッセが、やってくれた。

かつて、犬島には銅製錬所があった。その製錬所跡を利用して創られたのが「犬島精錬所美術館」だ。

犬島精錬所美術館
http://www.benesse-artsite.jp/inujima/

そもそも、島という日常からの隔絶がある。

そして、精錬所に入るや否や、鏡と光にいざなわれ、彼岸、異世界にどっぷりと身を沈めることになる。


(写真:犬島精錬所美術館ハンドブック)

ここは、美術館というよりアトラクションの要素が強いかもしれない。しかし、本当に見事な美術館だと思う。

精錬所の外には、遺構が佇む。

ヨーロッパの修道院あともいいが、産業遺産も負けてない、と思うのだ。

映像作品をつくりたくなる風景。

廃墟は、放っておくと緑にのまれる。ベストな状態であり続けるには、さりげなくバランスを整えることが必要だ。

もう、敷地全体が美術館。


★★★

正直、犬島の家プロジェクトは、ぐっとこない。家プロジェクトは断然、直島が面白い。
しかし、なんてことない島の小道や、小さな畑や緑にうずもれるようにたつ普通の木造民家が、ふとした瞬間に強烈な郷愁をかきたてる。

海と緑と坂道と木造家屋と。今ある抒情は、どうしても失われていく部分があるだろう。

犬島にはもう産業はない。あるのは遺構と「島全体が美術館」構想。犬島は、どう変わっていくのか。

犬島は、精錬所美術館がある時点で、是非また行きたい島。次にまた、犬島を訪れるのが楽しみだ。