気が付けば、蠅が消えていた

上野の「下町風俗資料館」。不忍池のほとりにあって、ふらりと訪れるには楽しい資料館だ。

台東区下町風俗資料館
http://www.taitocity.net/taito/shitamachi/

この100年くらいで劇的に人々の生活環境は変わったわけで、確かにこの手の資料館はおもしろい。

ただ、あまりにファンタジーに満ちたテーマパークになっていて辟易とすることも多い。

大体、「当時の街並みや住居の再現」などといっても臭いがないのがリアルじゃなさすぎだ、といつも思う。
昭和の時代まで、便所は汲み取り式だし、立小便は日常の風景だし、街は相当に臭かったはずだ。

さて、昭和の庶民生活である。

下町風俗資料館でおもしろい新聞記事の展示をみつけた。
だいたいこんな内容だ。

東京市では、大正時代末から毎年夏に「蠅取りデー」(1週間行われたので正確には「蠅取りウィーク」)と称する蠅捕獲キャンペーンを実施していた。
昭和14年(1939年)、期間中に捕獲された蠅の総数は、8521万2409匹。
麻布区在住のある夫人は、1週間に32万匹を捕獲したという。

これ、凄すぎ。戦前、東京は「蠅の乱舞する街」だったわけだ。1週間で32万匹捕獲ってどんな生活環境よ。さすがに32万匹は真偽を疑うが、それにしても「蠅取りデー」なんて不毛なイベントを毎年やってしまうくらい蠅だらけだったのは確かである。

すっかり忘れていたが、そういえば昭和の頃は、蠅が普通に飛んでいたし、食べ物には蠅帳をかぶせていた。

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いつの間にか、家から蠅帳は姿を消した。食べ物を覆う目的は「蠅を防ぐため」ではなくて「埃、乾燥を防ぐため」になった。
最近、蠅なんてまったく見かけない。

これは水洗トイレの普及が大きいだろう。
「平成20年(2008年)住宅・土地統計調査」によれば、東京都の水洗トイレ普及率は93.3%。意外に低いのは東京には離島なども含まれるためだろう。23区に限れば100%に近いのではないか。
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2008/nihon/2_5.htm


いつの間にか、蠅を気にするストレスから解放されていた。
そして蠅の存在なんて、すっかり忘れていた。

「昔はよかった」なんて絶対にない。
かつての劣悪な生活環境になど、今更耐えられない、とつくづく思う。

どう考えても「日本史上、あるいは世界史上、今が最高」だ。