医師法20条は改正すべき
1998年、祖父の死期が迫った頃、我が家は固く決意していた。
「絶対自宅で死なせない。断固、病院で死んでもらう」
なぜならば。
近所に自宅で大往生を遂げた老人がいた。
歩く姿はよぼよぼだったものの、いわゆるピンピンコロリを実現したわけで、普通にめでたいことだ。
しかし老人の死が実に大変だったこと。近所での語り草となった。
警察による検死が入り、家族は不審死の容疑者扱いである。
普通の市民がそしてそうした取扱いをされることは大変不快だし、非常に傷つく。
実際、いわゆる大往生だったのはまず間違いない。
個人情報保護法施行前、90年代の田舎の話だ。もしも不審と判断できるような根拠が少しでもあれば必ず噂として情報は伝わる。その情報伝達力は驚くほどだ。
80歳越えの老人の大往生を不審死扱いとは呆れる。
なぜそんな事態になってしまったのか。
医師法第20条に原因がある。
医師法第20条
医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。
近所のヤブ医者的には「病院に通ってなかったり、あるいはガンなどであっても24時間以内に診療してない場合は死亡診断書は書けないんで」ということか。
死体検案書を書けばいいのに。
で、警察に連絡してしまう。
医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。
「検案して異状があると認めたときは」と書いてあるのに。
一応、こうした不適切な状況があることを厚生労働省も認識している。
医師の診察を受けてから24時間を超えて死亡した場合に、「当該医師が死亡診断書を書くことはできない」又は「警察に届け出なければならない」という、医師法第20条ただし書の誤った解釈により、在宅等での看取りが適切に行われていないケースが生じているとの指摘があります。
「医師法第20条ただし書の適切な運用について(通知)」厚生労働省
http://www.zenhokan.or.jp/pdf/new/tuuti130.pdf
そしてこのように述べている。
生前の診察後24時間を経過した場合であっても、死亡後改めて診察を行い、生前に診療していた傷病に関連する死亡であると判定できる場合には、死亡診断書を交付することができること。
「医師法第20条ただし書の適切な運用について(通知)」厚生労働省
http://www.zenhokan.or.jp/pdf/new/tuuti130.pdf
この通知により「ガン治療してます。主治医がいます。カルテもあります。そろそろ死期近いのは分かってます」という人は安心して自宅に帰れるわけだし、自宅で最期を迎えても大丈夫なわけだ。
しかし、通知も結構だが、こうした誤解を生じる但し書きを改正すべきなのではないか。
まずはさっさと医師法第20条を改正せんかい。と思ってしまう。
そしてガンなどは病院にかかっているからまだいい。
いわゆる大往生は困る。しかし、生前に診療してないからといって警察に届けるのもいかがかと思う。
不審な点がなければ素直に死体検案書を書けばいいのにと思う。
2014年の今になってもまだ町場で「絶対に自宅で死なせてはならない。自宅で死ぬと警察が来て大変なことになるから」「とにかく入院させないと」という大真面目なアドバイスがまかり通っているのを聞いて進歩のなさに気が遠くなる。
とりあえず「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」(厚生労働省)を熟読しておこう。
「2014年版 死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」
http://www.mhlw.go.jp/toukei/manual/dl/manual_h26.pdf
ここに警察への届け出は異状があった場合に行うこと、「異状」とは「病理学的異状」でなく、「法医学的異状」を指すことが明記されている。
異状死については法医学会がガイドラインを定めている。
日本法医学会「異状死ガイドライン」
http://www.jslm.jp/public/guidelines.html#guidelines
このガイドラインを読むと「警察に届け出るべきケース」が多そうでまことに遺憾だ。しかし厚生労働省は「死体外表に異状なければ警察届出義務ない」との見解を示している。
東京保険医協会「死体外表に異状なければ警察届出義務ない――「医師法21条」解釈 厚労省が見解表明」
http://www.hokeni.org/top/medicalnews/2013medicalnews/130125ishihou21.html
はやく「生活の場で安心して往生できる社会」になるといい。
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