福井市の戦災復興
数日滞在したに過ぎないから、ただの思い込みかもしれないが福井市には「ここに住めたらいいのに、とふと思わされる美しい街」という印象がある。
ゆったりした時間が流れ、越前らしい洗練された文化と四季おりおりの自然に彩られ、街路は広く整備され快適に街歩きができる。
その福井市の街づくりの歴史は実は浅い。
なにしろ、
1945年7月19日 空襲により市街地の95%が焦土化。
終戦。復興都市計画事業に着工。
1948年6月28日 福井地震 福井市の79%の家屋が全壊。市街中心部焼失。
福井市は戦後、ほぼ白地から創りあげた街なのだ。
実は日本の多くの都市が同様に空襲で壊滅して、そのとき都市計画をつくり直しているのだが、福井市のように街を歩いていて「いいな」と感嘆する都市は少ない。
福井市の誇るべき歴史は、まずは戦後復興都市計画にあるのではなかろうか。羽二重餅も感動するほど美味しいのだけれど。
ともかくも、せっかくの成功例に学ばない手はない。福井市の都市計画について調べてみた。
(以下、引用出典は「福井市史」)
1.まず街路
「街路は都市計画の骨格であり、都市のあらゆる機能発揮の源泉である。
福井市では、この機会に旧来の城下町的な形態を一掃し、近代的文化都市の基盤をつくるため、抜本的な道路網をつくることとした。」
2.公園・緑地計画
「(戦災・震災の大災害の経験から)公園、緑地のなかったことが、いかに被害を大きくしたかということをまのあたり痛感した。」
住民の生活の質の観点からも確かに都市に公園など緑地は必要だと思う。緑地がないと息苦しい。
しかし、整備などに割とお金もかかるし、下手をすると犯罪の温床の地になったりもする。
「ランニングコストを抑えた健全で使える公園の創り方」というのもノウハウがいりそうだ。その辺りのノウハウの蓄積はどこでされているのだろうか。旧建設省、国土国交省などにどのような資料があるのか興味深いところだ。
3.墓園造成計画
福井県は仏教王国といわれる。戦災区域内でも133の寺があり、その寺院の境内には檀家の墓碑を供養されていた。
「市内に散在する墓碑を、このままに放置しておくことは、明るい町づくりの障害となり、また祖先の霊を祭るみちではない、さらに土地の有効的利用の面からいっても、これら墓地をどこか清浄な地に移すべきである。」
というわけで、福井市は市街地から1キロメートル南西の景勝の地に墓園を造成した。
翻って思うのだが、東京都内には墓地が多すぎないか。特に台東区を歩いていると無秩序とさえ思う。しかも例えば浄閑寺など、こんなみっちり息苦しい墓石の配置はまさに「霊を祭るみちではない」と思う。
こうした墓地を郊外に移動して跡地を公園や住居にしたらもっと快適な都市空間になるのではないか。
墓園は神奈川あたりの景勝の地(そこは居住するわけではないから、津波などの危険があり居住するにはあまり適さない地でも構わない)に広々と整備したらいいのではないかと私は考える。
どうせ青山霊園などであってもそう頻繁に墓参りに行くわけではない。ならば交通機関も発達していることだし、ちょっとした小旅行を兼ねられる景勝地に墓参りというのもいいのではないか。
4.排水計画
福井市は、古来何度となく水害に悩まされてきた。
「これに対する根本的な対策は、いうまでもなく改良下水道(公共下水道)の建設である」
しかしながら、
「当時わが国ではまだ下水建設に対する知識や意欲に乏しく、政府の戦災地復興事業計画の中にもそれは含まれていなかった」
にもかかわらず、福井市では1936年(戦前!)にすでに公共下水道の建設を計画していた。戦局悪化により中止していたものの、戦災復興に際して、市長は改良下水道の建設を決意し、ついに政府を動かし、それに着手している。
このあたり、まさに賞賛に値する部分だろう。
治水によって水害は防ぐことができる。
日本は戦後、治水および下水道整備に力を入れて、それに成功してきた国だと思っていたが、戦後すぐの意識が低かったとは興味深い。
実際、関東平野にあった我が家は、1970年代までは床下浸水があったが、80年代以降、浸水の記憶がない。この頃にそれだけ治水が進んだということだろう。
大体、我が故郷では1970年代、市内の川近い地域には、1階に舟を備え付けた家があったという。
それだけ頻繁な定期的浸水が前提であったということである。
今では考えられない話である。
なお、治水のすすんだ現在でも、水害が発生するところでは発生している。水害でまとまった被害があった地をみると「どうみてもその地形では水害をくらうのは当然」という、例えば河の中州のような場所に住宅地があったりして驚愕する。
なぜそのようなところに住宅を建てるのか、また行政が建築を許可するのか、おそらく歴史や経緯がなにかしらあるのだろうが、調べてみたい地域がいくつかある。
「まず治水」そして「水害が発生するようなところに住居を建てるな」である。
おそらく福井市における水害も含めた火災保険の保険金請求件数は少ないのではないか。
「都市計画が成功している地域は保険金請求が少ない」と仮定すれば、保険請求状況から逆に住みやすい街がみえてくるかもしれない。
5.結論
都市計画がイケてると快適で美しく、リスクの低い街に住めますよ、と。