扶養義務を考える

昨年、「扶養義務に対する今どきの感覚」について書いた。

今年、年収5000万円と推定される芸人の母親が生活保護を受けていることが騒ぎになった。

もう一度、扶養義務について考えてみる。

民法
(扶養義務者)
第877条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
2 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、3親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。

素直に読むと「基本、扶養は親族で」という思想が読み取れ「ちょっと待て」と思ってしまう。

城繁幸氏の「ザ・シミュレーション生活保護2030」
http://www.j-cast.com/kaisha/2012/06/04134359.html?p=all

子どもの教育費より兄に対する扶養義務が優先するなどありえないだろう。
宣言させていただきたい。
「兄弟姉妹に対して扶養”義務”はないと思います。」

あと、親に対する扶養義務が、自分の子どもに対する教育費等に優先することもないと思う。

「親を扶養するため、子どもに大学進学をあきらめさせた」
「親を扶養するため、子どもを中高一貫名門私立中学から公立中学に転校させた」
「親を扶養するため、子どもが打ち込んでいる習い事を辞めさせた」
「親を扶養するため、受験を控えた子どもに塾を辞めてもらった」

どのケースが「あり」でどのケースが「ない」かは人により判断は異なるだろう。
私は基本的にはどれも「ないな」と思う。

冷泉彰彦氏の「少子化問題その根源を問う(第2回)」
http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2012/05/post-437.php

勿論、成人した子の親への扶養義務という概念は、アジアだけでなく欧米の各国の法制や慣習の中にも程度の差こそあれ、厳然と存在します。

 ですが、結婚して子どももいる世代に取っては、まず「その核家族」を経済的に安定させること、そして未成年の子どもに十分な成長の環境を与えることが最優先だという、物事の順序というのはあると思うのです。濃淡はありますが、欧米にはあるし、中国圏でも日本よりはあると思います。

 まず成人した人間は、その世代の家族を形成し次世代を育むことが最優先であり、更に余裕があれば要求に応じて親への援助の義務が具体化するという「順序」があって良いと思います。またその際には最低限その配偶者の同意が必要というような運用でなくては、世代から世代へと「未来を担う人間」育てていくシステムが弱くなってしまうのではないでしょうか?

私としては親に対する扶養については「慣習における努力義務」として、現行民法の改正を提案したい。

民法改正(案)その1
(扶養義務者)
第877条 父母は、未成年の子を扶養する義務がある。

すなわち、親や成人した子に対する法的扶養義務は不要と考える。

例え高額所得者であっても。

高額所得者は累進課税によって国庫に他の人より大きな貢献しているのだから、国民としての義務としてはそれで十分だ。

高額所得者には累進課税による納税で国庫に貢献してもらえばよい。
例えば、年収5000万円であれば、所得税と住民税の合計は、様々な税控除制度を適用したとしても1000万円は軽く超えるはずだ。件(くだん)の芸人の場合、ざっくり1500万円程度、納税しているのではないかと私は試算する。

所得税の税率(国税庁
http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/2260.htm

現在の所得税最高税率は40%、住民税10%とあわせて合計50%となっている。

所得税の税率構造の推移(財務省)」
http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/income/035.htm

昔に比べ最高税率は低くなっているが、国際比較では日本は低い税率ではない。

「個人所得課税の税率構造の国際比較(財務省)」
http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/income/036.htm


大体、親子であってもそれぞれが独立した人格だと考えれば「子が高額所得者だから生活保護受給権がない」というのはちょっと違うのではないか。

もちろん、子どもの援助により、親が最低限度を超える生活をしたいのであれば(親に最低限度を超える生活をさせたいのであれば)、生活保護は申請できないことはいうまでもない。

生活保護を受給しつつ子どもから仕送りを受けて贅沢な生活をしていた場合は生活保護費の詐取であろう。生活保護法の第85条などが適用されるのではないか。

生活保護
(罰則)
第八十五条  不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。ただし、刑法 (明治四十年法律第四十五号)に正条があるときは、刑法 による。

よって、通常であれば経済的に余裕があるにもかかわらず、親を扶養せず、生活保護が申請されることは考えづらい。

前述の改正案は思い切りすぎだというのであれば、第2項は残す「改正案その2」を提起しよう。

民法改正(案)その2
(扶養義務者)
第877条 父母は、未成年の子を扶養する義務がある。
2 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、直系血族間においても扶養の義務を負わせることができる。


しかしながら、考えれば考えるほど単に「血族だから」という理由により、扶養の義務を負わせることに私は違和感を感じる。

誰を扶養しようがそれは個人の自由だ。

家庭裁判所が扶養義務を課す「特別の事情があるとき」とはどのような場合が想定されるのだろうか。どうも合理性のある具体的ケースが思い浮かばない。基本的に、扶養する気がない人に扶養義務を押し付けることは適切とは思えないのだが。

道徳規範は民法第730条で十分ではないか。

(親族間の扶け合い)
第730条 直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない。

更新:2013年5月18日 民法改正案その2にについて