コンサートホールの条件
ツィメルマン(Krystian Zimerman)といえば史上最高のピアニストの1人だろう。
「こんなクリアで粒だった音、完璧な演奏、聴いたことがない」と多くのクラシックファンを驚愕、熱狂させ、普段あまりピアノを聴かない人でも「オレでもこの人の演奏すげえってわかるよ」と言わしめる。
そんなツィメルマンの一途なファンの1人が東大の教授であったようだ。
なんと、かの教授は無謀にもツィメルマンに演奏会を依頼。そして信じられないことに依頼は快諾されたのである。
(注:2006年の話)
「マジ?!」
「安田記念講堂ってあの火炎瓶とバリケードと機動隊突入の?いや1969年なんて大昔の話だけれども。でもあの安田記念講堂で世界最高峰のピアニストが演奏を?」
「講堂って音楽ホールじゃないしピアノの調律とか最悪そうなのに?」
「あ、ツィメルマンは自分のピアノを持ち込むのでピアノは問題ないか」
「いやいやそれにしても講堂だもの。絶対音響とか考えて設計されてないはず」
いずれにしてもこんな希少なコンサート、逃す手はない。
当日、会場はかなりマニアックな音楽ファンが多かったようであった。
コンサート独特の集中と静けさの中、ショパンのバラード4番が静かな緊迫感とともに美しく始まる。
とその時、天からまぬけなカラスの鳴き声が。
「カア カア カア」
「終わった…」
私の思い違いでなければ会場中が1つの思いを共有した瞬間ではなかったか。
その時初めて気がついた。
「某ホールは古いせいか座席も狭いし、肝心の音響イマイチだし建替えればいいのに」とか「某ホールはピアノのコンサートには残響がありすぎる」など贅沢な戯言であった。
「カラスの鳴き声が降ってこないコンサートホールは素晴らしい」