年末第九のカタルシス

なぜ年末に第九なのだろう。
日本以外でこれほど第九が演奏される国はないと聞く。
12月の第九公演回数は尋常ではない。都内のコンサートホールの公演予定をざっとみた限りでも、サントリーホール11公演、東京文化会館7公演、オペラシティ8公演。
全国津々浦々に「第九をうたう会」があり、市民会館などでも演奏されていることを考えると気が遠くなるような第九の公演数だ。

確かに第九は誰もが認める傑作だ。しかし。
別に年末の演奏会はバッハでもヘンデルでもモーツァルトでもよいではないか。
別に第九は年末でなくても、春でも夏でもよいではないか。

この疑問と違和感がある公演で一気に解消した。

東京交響楽団 特別演奏会 第九と四季
指揮:秋山和慶
場所:サントリーホール
12月28日 19:00開演
12月29日 14:00開演

東京交響楽団ホームページ http://tso.jp/


秋山和慶氏が指揮する第九を聴いて、年末に第九という文化がこれほど根付いた理由に深く納得した。
第九に限らず、最近は軽快な演奏が主流だが秋山氏の第九は重厚である。重厚だからこそ演奏が終わった瞬間に一年の憑き物が落ちたようなカタルシスがある。
秋山和慶氏、風貌も巨匠然としているがその音楽も間違いなく巨匠のそれだ。
http://tso.jp/aboutTSO/Akiyama.html
奇をてらわないオーソドックスな演奏だからこそ、指揮者の力量があからさまになる。

秋山氏は1964年に指揮者として活動をはじめている。
私の認識に間違いが無ければ、秋山氏は昭和の頃から積極的に日本全国で第九を指揮されてきている。この秋山氏の活動が「年末は第九」という文化をここまで育てあげた要因の1つではないだろうか。
年末の第九は、世界の流行がどうであろうとも、やはり重厚でカタルシスのある演奏が聴きたいと思う。


東京交響楽団「第九と四季」の恒例アンコールは「蛍の光」。日本では卒業式、大晦日紅白歌合戦の〆で歌われてきたこの曲を全力で演奏されると反射的に感慨が胸に迫ってくる。
昭和に生きた時間の長い人ほど蛍の光による感慨は深いだろう。
日本の年末公演として、これ以上ぐっとくるコンサートはないのではないか。

この「第九と四季」は毎年同じ日程、同じホールで行われている。「年末はやっぱり第九」という今日の日本文化に納得して一年を締めくくるのも、いい。