パチンコ規制の方法論

さて「パチンコはギャンブル(賭博)である」というのは市井の人の一般的認識だが、賭博は刑法で禁じられている。

刑法
(賭博)
第百八十五条  賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
(常習賭博及び賭博場開張等図利)
第百八十六条  常習として賭博をした者は、三年以下の懲役に処する。
2  賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上五年以下の懲役に処する。

宝くじや競馬は、それぞれ当せん金付証票法競馬法によって合法化されている。

刑法
(正当行為)
第三十五条  法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

ではパチンコが根拠とする法律はなにか。
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」すなわち風営法である。

というわけで風営法をみてみよう。

風営法
(目的)
第一条  この法律は、善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため、風俗営業及び性風俗関連特殊営業等について、営業時間、営業区域等を制限し、及び年少者をこれらの営業所に立ち入らせること等を規制するとともに、風俗営業の健全化に資するため、その業務の適正化を促進する等の措置を講ずることを目的とする。
(用語の意義)
第二条  この法律において「風俗営業」とは、次の各号のいずれかに該当する営業をいう。
七  まあじやん屋、ぱちんこ屋その他設備を設けて客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業

パチンコは「遊技(娯楽)」であって「賭博(ギャンブル)」ではないということだろう。

私がパチンコ業者ならこういう理屈を持つだろう。
「こちらはお客を楽しませてやってるのや。娯楽を提供しているわけや。勝ったり負けたり、楽しませてやって対価をきっちり頂く。それがうちらの商売や。」

パチンコについて、店側が客ごとに勝率をコントロールしているのではないかといった「疑惑」が語られることがあるが、私に言わせれば勝率コントロールなど顧客サービスの一環という位置づけではないかと思う。

余談ながら、本気でパチンコで「勝ちたい(収支を黒にしたい。儲けたい。)」と考えている人がいることが私には信じられない。
1回1回では勝ったり負けたりしながら最終収支は赤。しかも大赤字。それで当たり前だ。店員の人件費、ホールの賃料、高い広告費等はどこから出ているのか考えれば明らかなことだ。
「その経費、なんぼかかっとるのや?」という思考回路は生きていく上で、またどのような職業につくにしても絶対に必要なものだ。

余談はともかくとして「パチンコは実質的にギャンブルだ。賭博罪が適用されるのでは?」という主張がされることがある。
大体、三店方式風営法第23条に違反していないとはとても思えない。

風営法
(遊技場営業者の禁止行為)
第二十三条  第二条第一項第七号の営業(ぱちんこ屋その他政令で定めるものに限る。)を営む者は、前条の規定によるほか、その営業に関し、次に掲げる行為をしてはならない。
一  現金又は有価証券を賞品として提供すること。
二  客に提供した賞品を買い取ること。
三  遊技の用に供する玉、メダルその他これらに類する物(次号において「遊技球等」という。)を客に営業所外に持ち出させること。
四  遊技球等を客のために保管したことを表示する書面を客に発行すること。

しかし、現時点においてはこのような真っ向批判によるパチンコ規制は実現可能性の低い、すなわち実利の薄い戦略ではないかと思う。「パチンコ営業には賭博罪が適用されます(違法です)。」として、いきなり20兆円産業をつぶすことは社会的影響を考えても問題が大きい。失業者も大量に発生するだろう。それはさすがに望ましくない。

そんな真っ向勝負を挑まなくてもパチンコ営業を規制する方法は他にもある。例えばこんな方策が考えられるだろう。

1.文教地区の指定を受ける。

そもそもパチンコ店の建築が許可されるのは、第二種住居地域準住居地域、近隣商業地域、商業地域、準工業地域、工業地域に限られる。逆に言えば、住居専用地域および第一種住居地域でパチンコ店を建てることはできない。
なかには実質、住居専用地域になっているにもかかわらず、昔の名残で準工業地域などのままになっているような地域もある。そうした地域は用途地域の見直しを自治体に求めた方がよい。準工業地域などに住むということは、ある日いきなり風俗店やパチンコ店が隣近所に建つリスクを負っているということだ。
しかしながら、毎日の通勤や買い物に必要な生活圏である駅前や商店街は当然のことながら商業地域や近隣商業地域である。商業地域にはパチンコ店を建てることができる。商業地域なしでは生活は成り立たない。生活圏からパチンコ店は排除できないのか?
いや、商業地域等であってもパチンコ店等、風俗店を規制する方法はある。自治体から文教地区の指定を受ければよいのである。

文教地区
 東京都文教地区建築条例(昭和25年東京都条例第88号)により、文教地区は、建築制限の程度により、第一種文教地区及び第二種文教地区に分けるとされています。

 第一種文教地区は主に、住居系用途地域又は学校等の教育文化施設の周囲に指定され、具体的には、建築基準法第48条(用途地域における建築物の制限)による制限のほか、風俗営業関連建築物等、ホテル等、劇場等、マーケット、遊戯場等、一定の工場等、勝馬投票券発売所等、その他風俗を乱すおそれがあると認めて知事が指定するものが規制されます。

 第二種文教地区は主に、住居系以外の用途地域や通学路等の区域に指定され、建築基準法第48条(用途地域における建築物の制限)による制限のほか、風俗営業関連建築物等、ホテル等、劇場等、勝馬投票券発売所等、その他風俗を乱すおそれがあると認めて知事が指定するものが規制されます。
(出典:国立市ホームページhttp://www.city.kunitachi.tokyo.jp/machi/kuiki/001599.html

文教地区で有名な自治体といえば国立市だろう。国立駅前にはパチンコ店や風俗店はなく、パチンコ店の乱立する近隣の立川駅西国分寺駅などとは一線を画している。それは市民の努力によって勝ち取られた環境である。

国立の教育環境を守るため、市民や学生を中心に、「文教地区指定運動が起こり、27年(1952年)1月6日、国立は建設省と東京都から「文教地区」の指定を受けました。
(出典:国立市ホームページhttp://www.city.kunitachi.tokyo.jp/shokai/000171.html

それに比べ、実に残念な例として思い出すのは、豊島区である。
巣鴨駅徒歩3分のところに全国有数の伝統校(創立はなんと1923年!)、本郷中学校・本郷高等学校がある。
巣鴨駅から本郷中学校・本郷高校まで、ソープランド(風俗店)あり、大型パチンコ店あり。ある知人が子どもの進学に際し「本郷中学校・本郷高校、いいなと思っているのだけど、通学路の環境が最悪でちょっと…。」と逡巡していた。せめて地域の伝統校、本郷中学・高校の通学路くらい文教地区指定を得る努力を豊島区と地域住人はしてもよいのではないか。

個人的にはあのパチンコ店が、囲碁倶楽部や将棋倶楽部などになったら巣鴨らしくてよいと思う。

出店できる地域が狭まれば、必然的に業界規模も縮小するだろう。

2.年少者のパチンコ店利用制限を徹底させる現実的規制。
現行でも18歳未満の者がパチンコ店に出入りさせることは禁止されている。

風営法
(禁止行為)
第二十二条  風俗営業を営む者は、次に掲げる行為をしてはならない。
五  十八歳未満の者を営業所に客として立ち入らせること(第二条第一項第八号の営業に係る営業所にあつては、午後十時(同号の営業に係る営業所に関し、都道府県の条例で、十八歳以下の条例で定める年齢に満たない者につき、午後十時前の時を定めたときは、その者についてはその時)から翌日の日出時までの時間において客として立ち入らせること。)。

しかしそれは徹底されているのか。確かにパチンコ店の入り口には風営法第18条(年少者の立入禁止の表示)に基づく表示はされている。それで充分とは私は思わない。

立入禁止の表示だけでは不充分。玉を購入するのには身分証明書による年齢確認を義務付けたらどうか。

直感的に、年少者の方が依存症になりやすい、影響を受けやすいのではないかと思う。
ギャンブル依存症病的賭博)について、多分アメリカなどにはエビデンスとなりうる先行研究が存在するはず。日本でも参考にする価値があるだろう。

風営法
(禁止行為)
第二十二条  風俗営業を営む者は、次に掲げる行為をしてはならない。
六  営業所で二十歳未満の者に酒類又はたばこを提供すること。

受動喫煙をさせない環境を整備した店でなければ20歳未満の者の立入らせることを禁止する規制もありなのではないか。

どうだろう?

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2011年8月27日「パチンコと貧困の密接な関係」