祖父の伝えた防災

津波の報道をみて母が言った。「『地震が来たらすぐに山に走れ』って常識じゃないの」。
そのもの言いがあたかも「台風が来るときは雨戸を閉めるのが常識じゃないの」くらいのニュアンスでちょっと驚いた。いや、日本全国民にとって「地震、即、山に走れ」というのはそこまで「常識」だろうか。
どこでそんな教育を受けたのだろう。問うてみたところ、教育元は祖父だった。
祖父は何度も何度も繰り返し子ども達に「海の近くで地震が来たら、津波が来るからすぐに山に走れ」と言っていたらしい。
しかし祖父は新潟県は浦戸の生まれ、終の棲家は長岡。あの辺では津波はないと思うのだが、祖父は一体どこでそんな刷り込みを得たのか今となっては永遠に謎である。

ともかくも母方の祖父は防災意識の高い人だったらしい。改めて母の祖父由来の防災行動を見直してみた。

1.寝る前に必ずやかんに水を並々と入れて(地震の際に倒れてこぼれないよう)しっかり蓋をしめ、流し(シンク)に置いておく。

そう、確かに飲み水の確保は重要だ。目安は1人3L×3日×世帯人数。ヤカン一杯の水では足りようがないが、それでもあるとないとでは大違いだろう。

今ならヤカンに加えてミネラル・ウォーターでも備えられる。便利な時代になったものだ。


2.風呂には常に水を張っておく。

これはむしろ水洗トイレが普及した現代でこそ非常に重要で是非実践すべきことだ。
阪神淡路大震災を体験した知人の証言。
「最もつらかったのはトイレやな。水が流せへんのや。トイレがすごいことになっとって、あれがほんまに情けなかった」。
阪神淡路大震災での水道断水はピーク時で約130万戸。3週間以上断水が続いた地域もあった。

2004年の新潟県中越地震でも2007年の新潟県中越沖地震でも水が問題となっている。
特に2007年7月16日に起きた中越沖地震で問題になったのは、飲料水よりも衛生面で必要な水であった。

今のお手洗いの大部分が水洗トイレ。地震で断水すると水洗トイレがいっさい使えなくなる。
衛生面からトイレが流せることの意義は大きい。

というわけで、実家で湯船の水を抜いて風呂を洗うのは、次の日誰かが初めて風呂に入る直前だった。前夜、育ち盛りの子ども3人を含む家族全員が入った風呂の水はおよそ1日そのまま。1日経つとそれなりの発酵が進む浴槽に抵抗も感じたが、「洗えばきれいになるので問題なし。別に誰も病気にならなかったでしょう?」と母に言われれば反論できない。

実質的なデメリットはないので、やはり風呂には常に水を入れておくことにしようと思う。

すごいぞ、祖父。水洗トイレ社会を見越しての貴重なアドバイス

というわけではなく、恐らく風呂の水は「初期消火のため」だっただろう。

「火事は最初の1分程度は簡単に消せる」という。
しかし、阪神淡路大震災では「バケツ一杯の水があれば消せるのだが、それを見つけてくるのも大変な状況だった」と現場の消防隊員が証言している。

水を確保することの重要性は、多分、決して強調しすぎることはない。