仙台 倒壊せず

2011年4月中旬、仙台。

仙台までの車窓で印象的だったのは、次第に増えていく瓦屋根にかかるブルーシート。もっとも、瓦屋根にブルーシートがかかっている様は都内でもあちらこちらにみられた。このブルーシートは業者によるものか住人によるものか。おそらく住民によるものだろう。これだけの損壊が発生したのだ。どう考えても、今、大忙しの業者がすぐに来てくれるとは思えない。個人的な感想としては、「ええっ、屋根に登って補修?無理」。戸建など建てる予定は全くないが、建てるなら瓦屋根は絶対やめたいものだと思う。

車窓から見る限り、瓦屋根以外、外観からは被害は確認できない。まして「倒壊家屋」など一軒も確認できなかった。

仙台市内も状況は同じである。目に付いた被害としては、

・新幹線ホーム、昼夜を問わず鋭意修繕工事中。
・駅前の、安普請かつ古そうな建物のマツモトキヨシが立ち入り禁止で再開の目処が感じられない風情で閉店中。
・2006年の悪質な建設基準法違反の印象も鮮烈な東横インの外壁が修理中。

といったところ。こうした「想定内の被害」以外は確認できない。

死者や重傷者がでなかったことは本当に幸運だったと戦慄させられた「さくら野デパートの外壁歩道落下」については、既に片付けられていて残念ながら現認することができなかった。もっともあれを1ヶ月放置はありえないが。

津波被害を免れた若林区などの民家も外観を見る限り「地震なんて、いつあったのでしょうか」とばかり、地震被害の片鱗も感じられない。
むしろ「え、いかにも地震で倒壊しそうなこんな古いあばら家(失礼!)もまったく無傷なの?」と驚かされた。

この私の受けた印象は決して不当なものではない。

仙台市長の奥山恵美子氏も日経アーキテクチュア 2011年5月25日号でこのように語っている。

 町の中を見ても、宮城県沖地震(1978年)の時に目立ったような倒れたビル、つぶれたビルは少なく、想定を上回る地震にも耐えたといえると思います。

 今回の地震で興味深いのは、我々が倒れると思っていた木造の老朽家屋が、意外にも倒れなかったことです。

続けてこのように語っている。

 耐震補強をしてください、してくださいと我々が言い続けてきたにもかかわらず、補強しないで無事だった方々が、「これだけの大地震でもったのだから、補強しなくても大丈夫だ」と自信を持たれるかもしれません。

すみません。我が築40年以上の老朽木造アパートも大丈夫だなと自信を持ってしまいました。

 なぜ今回、老朽木造住宅が大丈夫だったのか。揺れの周期によるものと聞かされましたが、周期の違う地震が来たらやっぱり危ないということも含めて、専門家の方々に発言していただきたい。

専門家の方々、説得力のある発言をお待ちしています。

ひるがえって1923年(大正12年)9月1日の関東大震災をみてみよう。

神奈川県では全壊46,719、半壊52,859戸で全戸数274,300戸の36%強。
横浜市では全壊9,800、半壊10,732、計20,532戸で全戸数98,900戸の20%強。

千葉県では家屋の全壊12,894、半壊6,204、計19,098戸。
館山町では戸数1,700戸の99%が倒壊。北条町では戸数約1600戸中、全壊1,502戸、半壊47戸、郡役所、中学校、停車場等すべて全壊。
(出典:吉村昭関東大震災」)

戦前は地震によって町や地区の消滅が起こっていたということだ。しかし今の日本で地震の倒壊による町の消滅はない。

今回の被害は津波に尽きるといえる。
地震にはよく耐えた。むしろマスコミは、このあたかも何事もなかったかのような佇まいの仙台市内こそセンセーショナルに報道して欲しい。

「こちら、仙台市内です。見てください!この地震の痕跡が見られない町並み!」
まったく地震の痕跡のない住宅街の絵は仙台市内、どこでもとれる。

直下型の縦揺れではなく横揺れだったとはいえ、もっとみんな、戦後日本の建築基準に感動してもよいのではないか。

2011年3月11日、仙台 倒壊せず (震度6強)
2011年3月15日、静岡 倒壊せず (震度6強)

具体的には、

2011年3月11日、栗原市震度7)全壊5棟、半壊15棟(出典:日経アーキテクチュア2011年4月25日号)。
        栗原市は2011年3月末時点で人口76,414名、24,581世帯(住民基本台帳人口)。
2011年3月15日、富士宮市震度6強)倒壊家屋(全壊・半壊)なし(出典:日経アーキテクチュア2011年4月10日号)。
        富士見市は2010年12月末時点で人口134,133名、50,269世帯。(住民基本台帳人口)。     

ただ、今回は耐えたが、この地震によるみえない損傷が、次回の地震にどう影響するか。
例えば仙台駅前の歩道橋は明らかにゆがんでいる。
2011年2月22日のニュージーランド地震。日本人にも多数の被害者を出した倒壊ビルは、前年の地震での損傷が指摘されている。

今、問われているのは適切な耐震診断と耐震改修の技術だろうか。