店舗の節電

ある友人と和食のお店で待ち合わせた。友人、やってくるなり個室の照明に目は釘付け。
「これ、白熱球ですよね」
「そうですね。しかも消費電力の大きそうな」
最近、家の中の白熱電球をすべてLED電球に換えたという話をよく聞く。
「家中の白熱球をすべてLED照明に換えましたが、うちは平日昼間は留守にしているのでピーク時の電力抑制に関係ないんですよね。でもこのお店は平日昼もやっているわけで。この照明、デザイン的にも別に蛍光球かLED電球に換えても支障なさそうですが、まさか夏までこのままなのでしょうか。」
納得できなげ。

平日昼間に営業している店舗がどのような節電を行なうのか、やっぱり気になってしまう。

高島屋は今夏、LED照明の前倒し導入などによって東京電力管内の店舗でピーク時電力の25%削減を目指す方針を固めた。営業時間短縮や空調設定温度の引き上げをせずに、15%が有力とされる政府の節電目標を達成できる見込みだ。
 高島屋は、東電管内の店舗にあるハロゲン灯約3万5千個をすべてLED照明に置き換える。照明の間引き消灯と合わせ、16%の節電ができるという。さらに昇降機の一部停止などで4%を節電するほか、コピー機やファクスなどの事務機器をすべて複合機にして台数を半減するなどの施策も進める。
店舗照明のLED化は2014年度までに全国の店舗で順次実施する方針だったが、前倒しすることにした。投資額は約4億円。商品を照らす小型のランプは、子会社の高島屋スペースクリエイツが従来のハロゲン灯と同じ大きさで、光の色合いも同様となる新製品を開発した。  定休日は設けず、空調の温度設定も昨年と同様に据え置く方針。節電がもたらす消費への影響を最小限に抑えるねらいがある。

2011年5月7日 朝日新聞http://www.asahi.com/business/update/0506/TKY201105060449.html

高島屋、素晴らしい。

私は基本的に「需給調整契約」(普段は電気料金を割り引きしますが、いざというとき電力の供給制限しますという契約)を締結している大口事業者でなければ、売り上げ等に影響するような無理な節電はする必要はないと考える。政府の提唱する「一律15%うんぬん」は所詮努力目標にすぎず、一律に押しつけられる筋合いはない。「すでに絞りきっている雑巾は絞れない。」という家庭や企業もあるだろう。
すべての家庭と企業に一律15%削減を目標にかかげるというやり方は遺憾だ。なぜなら「今まで全然省エネなんてしてきませんでした。」という企業が圧倒的に有利ではないか。今まで、超まじめに省エネに取り組んできた優良企業は、現状から数%削るのも難しいだろう。そういう企業が「今まで、省エネなんてやってこなければよかった」「これからも有事までは取り組まない」と学習して「反省」してしまわないか心配してしまう。

それにしても街中の店舗の節電施策、「間違ってないか?」「というか確実に間違ってると思うぞ。」というものもある。

「定休日の設定」って必ずしも節電にならないのでは

本当は不特定多数を収容できる商業施設はより多くの人々を集客することで社会全体として省エネがはかれるはず。
例えば工場勤務の人はこの夏、平日が休業となる可能性が高い。「冷房をきかせた部屋でお父さんが一人で甲子園テレビ観戦する家庭が沢山ある状況」より、「老舗デパートや近所の店舗の“みんなで応援して盛り上がろう!甲子園観戦企画”に沢山のお父さんと子どもが集まっている状況」の方が社会全体としては節電になるし、店舗の売り上げにも貢献する。なによりその方が楽しそうだ。

だいたい「○曜日はほとんど売り上げがなくて、開店しているだけ電気代がかかって赤字たれ流しなんだよね」という曜日があるならともかく、通常は定休日を設けたら売り上げが落ちて経営にも影響する。またデパートは、各テナントから売り上げの数パーセントをテナント料として徴収するからデパートのみならずテナント企業の収益も落ちるはずだ。
もしかしたら、定休日導入の本当の理由は「実は開店していると赤字たれ流しという曜日があるので定休日としたいが、それを公言すると斜陽のイメージが鮮烈になるので、これ幸いと節電を口実に使わせてもらう」ということかもしれない。対策が「売り上げがあがるようにしよう」ではなく「定休日設けよう」とは後ろ向きすぎな気もするが、「うちはそんな集客できるような企画力ないので」という冷静な自己分析の結果であれば、それはそれでやむを得まい。

「営業時間の短縮」は意味不明

営業時間の短縮は消費電力のピークが平日昼間・午後であることを考えると、例えば21時の閉店時間を19時にしたところで必要な節電にほとんど寄与しない。ましてや消費電力のピークがない休日の閉店時間を「節電のため」繰り上げるという対応は、儲け時であろう時間帯を放棄して一体何がしたいのか理解に苦しむ。

「間引き照明」いかがなものか

「え、照明、間引いてたの?気がつかなかった。」というような間引き照明ならむしろ今まで無駄に明るかったということなので、その間引きはむしろ今後も継続してやるべきだと思う。が、商品が見えにくくなるような購買意欲を減衰させる「間引き照明」は、「私たち、節電してますが、なにか。」というこれみよがしな自己アピールに感じてしまう。
特に、明らかに電力使用量のピーク時ではない20時過ぎや休日に、照明を消して薄暗い店内をみると実にげんなりする。この「明らかに間違った節電」は「うちの企業・店舗の人間は、電力の仕組および今、東京電力管内で求められている節電を全く理解していません。」と言っているようなものだ。
ピーク時を外した間引き照明など、自店舗の電気料金の節約でしかなく全く社会が求める節電に寄与しない。

もっとも間引き照明をしている店舗は、もしかしたら節電を口実に節約をはかっているのかもしれない。「今こそ節約のチャンス!」みたいな。その場合、顧客は、ピークカットの考え方を理解していないことが前提になっている。「うちの顧客は理解力が低い」と認識している、いいかえれば「私たち顧客はバカだと思われている」ということか。

やるべきはLEDなど高効率照明への切り替えかと

まず店舗が取り組むべき「節電」は、白熱球、ハロゲン灯等の低効率照明からLEDなど高効率照明への切り替えではないか。それなら売り場・顧客に影響を与えず節電することができる。

セブン―イレブン・ジャパンは14日、東京電力管内にある約5千店の照明や店頭看板を全てLEDに替えると発表した。太陽光パネルのほか、省エネ型の空調や冷蔵庫を導入。電力使用量を計測するセンサーも取り付け、夏場は昨夏の平均より25%削減する。投資額は100億円超を見込む。
 ローソンも70億〜80億円かけて今年度中に全店(約1万店)の照明をLEDに替える。

2011年4月14日 朝日新聞http://www.asahi.com/business/update/0414/TKY201104140390.html

もともと白熱球やハロゲン灯など低効率照明を使ってないコンビニが照明を見直して節電をするとは思っていなかったのでこのニュースには驚いた。近所のコンビニではすでに低効率照明、Hf型蛍光灯を使っているのに、それをLEDにかえても費用対効果は低い。それでもあえてやるとは。
「できる企業は違う」ということか。とか感心している場合ではなく「うちの会社も蛍光灯からLEDへ切り替えるべき?」みたいなプレッシャーは感じる。

しかしながら実は最も優れた対応をしている企業はニュースになりにくいと思う。以下にグループ分けをしてみた。

高島屋などは第2グループ。第2グループの企業は自社のホームページに取り組みを載せやすいしマスコミも報道もしやすい。しかし第1グループの企業群はなかなかアピールが難しそうだし、現時点からの「15%削減」なんて目標を押し付けられて困っているのではないか。

超有名大企業にもかかわらず第3グループに属するいくつかの企業、LED切り替えの費用が捻出できないほど資金繰りが切羽詰っている、または速やかに照明の見直しが実施できないほど組織が硬直化しているとしたら、むしろ経営危機か。
今年の株主総会CSRについてどのように語るのか注目したい。

それにしても「自主的に、一律15%節電すべき」という精神論的な目標設定は、どことなく先の戦争のころの「欲しがりません。勝つまでは」などという標語を掲げて「出来ること、出来ないこと、効果的なこと、効果のないことの選別」といった合理的思考を放棄した社会状況をなんとなく彷彿とさせられる。

それより、電気料金をあげれば「節電した方が得」というわけで、合理的節電が促進されるのではないか。

照明の見直しについても第1グループの企業からみて「第2グループの企業はほめられていいよね。簡単に目標達成できていいよね。」ではなく「第1グループの企業も第2グループの企業もLEDに切り替えといてよかったですね」ということになる。

顧客の意識も急速に変化している。私自身、2011年3月以前は、白熱球と蛍光灯の違いすら分からず、照明の消費電力などまったく興味なかったのに、いまや白熱球のみならずクリプトン球、ハロゲン灯、レフ球の区別までつき、それぞれの消費電力や、それらがLED電球、蛍光球に代替可能かどうかまで大体推測できるようになっている。

私や友人のように、店舗でまず照明に目が行ってしまう顧客は結構いるだろう。で、そこに白熱球などがあれば「え?」と思ってしまう。

お店を経営されているみなさま、企業・お店のイメージが大切ならば、デザイン的に代替が難しい照明はいざしらず、明らかに代替可能な低効率照明は可及的速やかに蛍光球かLED電球に換えた方が無難かと。