86館2週間限定公開映画について

SMAP3人が主演したアンソロジー映画が色々な意味でおもしろかった。
4人の監督によるアンソロジー映画にもかかわらず1つの作品としてまとまっているという割と難易度の高いことを成功させている。

非常に暗喩に満ちた映画なのだが、数十年日本に住んでいる人間には「分かる」。
かつてソ連映画を観て「この意味不明なシーンが何かの強烈な暗喩なのはわかるが、今一つ何を表現しているのか分からん」と悔しく思ったものだが、これは今、日本でつくられた映画なので分かる。
むしろ、何気ないぽつっとした台詞の意味にはっと息をのんだりする。
SMAPの来し方と今の状況を知らなかったら「分からない」表現が沢山ある。

これは「今、観るべきカルト映画」だな、と思った。

確かにSMAPを知っていれば楽しめる映画だし、彼らの今のメッセージに興味を持つ人は多いだろうとは思うものの、いうなれば渋谷で単館上映してそうなテイストの映画で、決して万人受けして大ヒットするような作品ではない。

そのマーケティングも非常に興味深かった。

1.最初から2週間限定して公開。

そもそも大ヒットでロングランが見込めるタイプの映画ではないので、最初から限定上映と打ち出すことで「早期打ち切り」というマイナスの風評を防ぐことができる。
また、限定上映にすることで、上映中は「劇場が満席」というビジュアル的に成功を印象付ける状態をつくりやすい。
「なるほどな」と思う戦略だ。

ついでに「ジャニーズ事務所のタレント出演映画の公開時期と被らない」という大人の事情による条件をクリアする必要もあったのだろうと推測する。


2.目標観客動員数の発表

聞いた瞬間は「重要なのは興行収入じゃないの?」と脊髄反射で思ってしまったが、ビジネス的に重要なのは興行収入でも、今、彼らにとって社会的成功として重要なのは「より多くの人に観てもらうこと」なのだろう。

なお、映画のホームページをみたら4枚セットの前売り券(5600円)を販売していた。
デザインも素敵だしコアなファンは当然買うだろう。しかし2週間で4枚すべてを使い切るのは難しい。
これは絶対にチケット販売による興行収入の方が観客動員数を上回る映画なのだ。

なるほど。目標を動員数とするのはほんと正しい。

そして毎日ホームページ上で累計動員数を発表というのも興味深かった。
86館の観客数が、翌日には集計して発表できるんだな、というのはひと昔前ならありえない。


★★★

公開期間中、動員の動向も含めてとても楽しんだが、疑問も残る。

目標観客動員数15万人というのはチケットの興行収入では約2億円といったところだろう。実際の観客動員数は目標を大きく上回る28万人だったので約4億円くらいだろうか。
テイストはチープでも、明らかに相当な制作費がかかっている映画である。
公開期間中のチケットによる興行収入では制作費のリクープはできないだろう。
とはいえ、この映画の場合、物販の売上も大きく期待できるし、ソフト販売収入も視野に入れているのだろう。

制作費は一体いくらかかったのか。最終的な収益はどうなるのか。
ちょっと、いやかなり興味があるところだ。


クソ野郎と美しき世界

公開館数 86館
公開期間 2018年4月6日〜4月19日(限定2週間)
目標観客動員数 150,000人
実績観客動員数 280,021人