少女漫画のすゝめ
昔、知人に非常にモテる傑物がいた。頭の回転が速く洒脱で、その才気は誰もが認めるところだった。そして常に彼女がいるというか、恋愛沙汰が複層することはあっても切れることはない。彼をめぐる数多の恋愛劇は、まるで小説のようなエピソードに満ちていた。
さて、「もてる」という状況は3つに分類できると思う。
1.アイドル的にもてはやされる。
2.常に「彼女(ステディな相手)」が切れない
3.多くの女性を陥落させている
アイドル的にもてはやされ、常に彼女がいて、かつ多くの女性を陥落させている、という3要素そろったもて方をする男は珍しい。
特に目立って騒がれるわけではないのだが、美女との浮名が絶えないというタイプならば、まぁそれなりにいるだろう。そのような人物も確かにいた。
そして実は彼らには共通点があった。彼らは少女漫画を愛読していたのである。
なるほど。敵を知れば百戦危うからず、である。
相手の思考回路や「望む言葉や望むシチュエーション」をインプットしていればそれは強い。
次々と美女と浮名を流す彼などは「高校時代、源氏物語(原文)を全文読破した」という。こういうのを筋金入りの達人というのだろう(←違う)。
というわけで「少女漫画のすゝめ」である。
なお、これはあくまで私のブックリストなので、これを読んだことで期待する効果が得られるかは保障できない。
というか少女漫画、名作が沢山あるという意味でも普通にお奨めだ。
★★★
◆萩尾望都「ポーの一族」(1972年)
繊細で美しい絵、そして詩のように美しい物語。これが傑作でなければ、どんな作品が傑作なのか、というレベルの傑作。
ポーの一族 復刻版 限定BOX: フラワーコミックススペシャル
- 作者: 萩尾望都
- 出版社/メーカー: 小学館
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◆池田理代子「ベルサイユのばら」(1972年〜1973年)
言わずと知れた名作。王道の少女漫画である。フランス革命前夜、革命で断頭台の露と消えるマリー・アントワネットと架空の男装の麗人オスカルを主人公とした物語。思うに革命と恋愛は相性がよい。
ベルサイユのばら 愛蔵版(第1巻) (Chuko★comics)
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この漫画の元となったシュテファン・ツヴァイクの「マリー・アントワネット」もいい。まったく平凡で能力もない人間が、超人的に高い能力とエネルギーが必要な重要ポジションについてしまった悲劇である。
・シュテファン・ツヴァイク「マリー・アントワネット」(1933年)
- 作者: シュテファン・ツワイク,Stefan Zweig,高橋禎二,秋山英夫
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◆大和和紀「源氏物語 あさきゆめみし」(1979年〜1993年)
源氏物語の原文読破はちょっとハードルが高いので、大和版源氏物語でお茶を濁そう。というか大和版、充分クオリティ高い。
源氏物語 あさきゆめみし 完全版(1) (Kissコミックス)
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◆佐々木倫子「動物のお医者さん」(1988年〜1993年)
北海道大学の獣医学部と学生たちの傑作コメディ。
動物のお医者さん 愛蔵版 コミック 1-6巻セット (花とゆめコミックス)
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◆萩尾望都「イグアナの娘」(1992年)
我が子が醜いイグアナに見えてしまう母親。ひとつの母子関係の典型を鮮やかに描いた名作。
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◆二ノ宮和子「GREEN〜農家のヨメになりたい〜」(1998年〜2001年)
秩父の農村を舞台とした爆笑コメディ。これほど爆笑した漫画はちょっと思いつかない。
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◆矢沢あい「Paradise Kiss」(1999年〜2003年)
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◆椎名 軽穂「CRAZY FOR YOU」(2003年〜2005年)
この作品、まず主人公のこの台詞にやられる。
「全部嘘だとしてもさあ ちゃんと全部だまされるから安心してよ」
驚愕天地。なんと思いもよらない発想がさらっと提示されることか。と同時にそこにある種の普遍も感じられる。
主人公の親友の朱美や雄作がしっかりリアルも感じられてとてもいい。名作。
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◆よしながふみ「西洋骨董洋菓子店」(1999年〜2002年)
作者がこの作品を少女漫画と定義しているからこれは少女漫画だ。それにしてもよしなが氏の描く心理描写は本当に繊細だ。
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◆安野モヨ子「さくらん」(2001年〜2003年)
時は江戸時代、吉原を舞台とした作品。描き方は美しいが、きっちり吉原という世界の惨さを切り取っている。
鬼とは何か。とある友人は「ああ、これこそ鬼だと思った」と言った。実は私はまだその腑に落ちた感じがない。いまだに気にかかっている。
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◆よしながふみ「愛すべき娘たち」(2002年〜2003年)
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◆西原理恵子「パーマネント野ばら」(2004年〜2006年)
これほどの恋愛ものの傑作はちょっとない。紫式部の源氏物語など余裕で霞む。必読の名作。
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◆水城せとな「窮鼠はチーズの夢を見る」(2006年)「俎上の鯉は二度跳ねる」(2009年)
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◆椎名 軽穂「君に届け」(2006年〜)
北海道の高校生たちの爽やかな青春物語である。
出てくる少年達が見事に全員「こんな奴いないから!」という、いうなれば「(少女にとって都合の)いい男達」である。しかしながらそれは決して作品の瑕疵ではない。これは「少女達を主人公にした作品」である。目的は少女達のあり方や感情の動きを描くことであり、少年たちはあくまで物語回しとしての役割や物事のトリガーとしての役割を果たせばよいのである。
「こんな女いるわけない」という「都合のいい非現実的な女」しか出てこない数多の文学作品が名作たりえていることを踏まえれば、「少年達がリアルじゃない」ことをもってこの作品を否定することはできない。
もっとも主人公の少女もありえないほど性格がよく、この作品は映画「初恋の来た道」などと同様に、1つの美しいおとぎ話のような名作かもしれない。
さて、この作品の白眉は11巻である。主人公の爽子にはくるみという美少女ライバルがいるのだが、この二人の関係がしびれる。
くるみが「爽子ちゃんが ライバルで良かった」と告げるに至る場面はまさにハードボイルド。いまや少女漫画はハードボイルドなのである。
君に届け リマスター版 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
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◆ヨネダコウ「どうしても触れたくない」(2007年〜2008年)「それでも、やさしい恋をする」(2014年)
とにかく間の取り方がとてもうまい。パウゼにこそ濃密な音楽が存在する曲のように、言葉のないシーンに物語がつまっている。
どうしても触れたくない (ミリオンコミックス CRAFT SERIES 26)
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◆こうの史代「この世界の片隅に」(2008年)
しみじみ傑作。
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◆中村明日美子「同級生」(2008年)「卒業生(冬)(春)」(2010年)
3冊に分かれているが、一連でひとつの作品。
1つにまとめて題名は「初恋」にして出版したらいいのにと思う。男子高校生の恋物語。しかしこれほど瑞々しく、驚くほどストレートで素直で幸福感に満ちた作品があろうか。これはまぎれもなく日本文学史上の最高傑作。
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◆麻生みこと「路地恋花」(2009年〜2012年)
舞台が京都というのがいい味。空気感が魅力だ。
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◆山内 直実「月の輝く夜に」(2012年)
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