ししゃもとカペリン

ししゃもはオスの方が断然美味しい。

大体において、そもそも私が今まで「ししゃも」として食べてきたものは実は「カペリン」なる魚であった。
それはそうだ。何しろ現在、ししゃもとして流通しているものの90%以上がカペリンなのだから。


(写真出典:カネダイ大野商店)

ししゃも代用品
英名:カペリン(Capelin)
ノルウェーアイスランド、カナダ北東岸などに分布している。青、銀色をおびて川にさかのぼらないキュウリオ科の魚。脂肪っ気がなく、柔らかな口あたりと香りがない。
((株)カネダイ大野商店)

写真といい、カペリンについての散々な書きぶりといい、ししゃもがカペリンにとってかわられた悔しさがにじみ出ていて面白い。

ではなぜカペリンがししゃもとして、これほど大々的に流通しているのだろう。

その昔、ししゃもは大量にとれる「大衆魚」でした。
しかし、卵を多く抱いた成魚の乱獲により、水揚げされる魚体数が減り続け、ある時期より、ししゃもは「高級魚」となりました。
むかわ町では大正15年(1926年)には19トン、昭和5年(1930年)には68トン、昭和43年(1968年)には178トンものししゃもの水揚げを誇りました。

ししゃもが遡上する「鵡川」は川尻が移動しやすく度々起こる川の氾濫など自然災害に弱い川でした。
その為、川の整備が度々行われ、ししゃも遡上の環境も昔と比べて大きく変わりました。
それに加え、ししゃも漁法の技術進歩による成魚乱獲により平成2年には漁獲量が7トンまで落ち込みました。
(出典:カネダイ大野商店ホームページ)

乱獲と環境破壊(ししゃもに配慮しない河川整備)でししゃもを激減させてしまったことは断罪されるべきところだろう。
日本全体でみればその乱獲、衰退ぶりはより一層鮮明だ。

北海道の道南(胆振,日高)地域では,かつて1,000トン以上を記録したししゃもの漁獲量が昭和40年代以降急激に減少し,平成2年(1990年)には,15トンと過去最低を記録した。
(出典:農林水産省 http://www.maff.go.jp/hakusyo/sui/h08/html/SB1.6.2.htm

ししゃもがカペリンにとって代わられたのは、消費者としては無念な出来事であっても、漁業関係者としては自業自得であろう。

このような「ししゃも存亡の危機」にむかわの漁協は平成3年(1991年)から4年間もの期間、自主休業を決めてししゃも漁を行いませんでした。
むかわ漁協の女性部は鵡川の氾濫を防ぎ、ししゃもの産卵に適した環境を作るために、鵡川上流の山に植林を行いました。
むかわ町の町民は「むかわ柳葉魚を語る会」を設立し、ししゃもに関するさまざまなイベントを開催してきました。

このようなむかわ町民の努力が実を結び、年を重ねるごとに確実にししゃもの数は増えていきました。
平成7年(1995年)以後の水揚げ量は毎年70トン以上もとれるようになりました。
(出典:カネダイ大野商店ホームページ)

乱獲の昭和を経て、「水産資源の持続可能な利用の確保」という発想がようやっと芽生えてきたのは1990年代、平成に入ってからなのだな、ということがよく分かる。

念のため付け加えれば、昭和以前は乱獲できる漁業技術がなかった時代ということであり、別段「昔の人は賢かった」とかいう話ではない。

で現在は、

平成14 年(2002年)以降は年により変動はあるものの、全体としては1,300 トン前後で概ね安定して推移している。(北海道庁「北海道資源管理指針」http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sr/ggk/sigen/kanrisisin.pdf

ししゃも復活。
漁獲量が回復し、資源管理の意識が定着したししゃも漁業は、日本の優等生であろう。

もっとも、ししゃもが「大衆魚」であった時代は戻ってはくるまい。
流通が発達していなかった時代、魚を日本全国に、また海外へ輸出することは不可能だった。
消費可能な地域は非常に限られていたわけで、その地で供給過剰となればおのずと大衆魚となる。
ただし、その地にいない人にとっては「幻の魚」だが。

今や冷凍・冷蔵輸送技術の発達で、日本全国、更には海外にも売ることが可能となった。
ししゃもは北海道の太平洋岸にのみ生息する魚だ。今後、ししゃもの漁獲量を増やすとしてもおのずと限界があるだろう。どうしても絶対量が少ない。

ししゃもがカペリンにとってかわることは量的に無理だ。
そして、カペリンよりもししゃもの方がやはり圧倒的に美味しい。

供給量が限られていて流通可能地域が劇的に広がった以上、ししゃもが「高級魚」となることは避けられない。

高級魚といっても、例えばオスで一番安いものだと1串=10尾 900円といったところだ。
(カネダイ大野商店における2012年11月の価格)
決して手の届かない魚ではない。

しかし未だ、現地に行かなければ食べられない味もある。

ししゃもの名店、カネダイ大野商店では、10月から11月にかけて、ししゃもの寿司が食べられるそうだ。
輸送技術の進んだ現代といえど、寿司までは難しいのだろう。私はいまだししゃもの寿司というのは食べたことがない。

いつか鵡川(むかわ)に行ってみよう。鵡川までの交通費を考えると超高級寿司だが。


★★★

【2017年追記】

私が聞いた限り、札幌市民や札幌のすし職人さんのししゃもへの評価は辛口だった。
「(ししゃもの寿司は)そんな美味しいものじゃないですよ」「お奨めしませんね」
それでも鵡川に行ってみた。

結論。
「ししゃもは、干しししゃもを焼いて食べるのが圧倒的に美味しい」。

確かに、ししゃもの鮨、ものすごい淡泊。
ついでに、鵡川より東京の鮨屋さんでいただいたししゃもの鮨の方が圧倒的に美味しかった。美味しい鮨には優秀な鮨職人さんも不可欠。

あと、改めて調べたら、ししゃも、2014年には「過去2年間で最低の 573トンを記録」とな。

(出典:北海道資源管理指針 )
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sr/ggk/sigen/281017do-shishin.pdf

ダメじゃん。今回、大野商店店頭で、「どう考えてもとるべき時期ではない」、卵を孕んだばかりの小ぶりなメスを売っていたのが気にかかった。10月初旬はまだとるべき時期ではないとみた。

適切な資源管理、できますように。